第28話 線路は続くよ『機関車トーマス』

 11才になりました。たいへんですっ、鉄道の一大建設ブームがやって来ました。

 ナルト王国から輸入した鉄鉱石で、高炉が、稼働したので念願の鉄道建設を始めたのです。

 手始めにグランシャリオ領内に乗合い鉄道を作りました。これは、遊園地にあるような小型の機関車で引く、乗客用と炭鉱や石灰石の採掘場を繋ぐ、トロッコの牽引用です。


 次に建設したのは、グランシャリオ領と王都を結ぶ本格的な鉄道。広軌道の複線路です。

 途中の駅舎は、各領地の貴族が作ってねと、丸投げしました。ただ、駅の位置は、こちらで決めて、そこに乗降の階段だけ設置しました。

 勝手に貴族の城の近くに駅舎を作った貴族もいましたが、そんな場所には停車しません。

 文句を言って来たので、この領地に停車しないことにするよと言ってやったが、我が領地を通るのであるから、通行の対価を寄こせと言うので、宰相に指示して、その貴族を僻地に領地替えさせた。

 国の発展を阻害する貴族は、廃爵か当主隠居の上で降爵だ。文句を垂れた貴族は子爵だったので、当主は隠居させ、後継ぎを男爵に降爵し領地は半減して僻地への移封となった。

 トランス王国の王城や大臣達は、理解しているが、末端の貴族には旧態依然の横柄な者達がまだまだいるのだ。  


 王都への鉄道が開通すると、その利便性に誰もが驚嘆した。反響が凄い。

 王城の父さまへ、地方からの鉄道敷設の陳情が引きも切らず、仕方なく、各領地の貴族が一団となって鉄道建設の費用を自分達で賄うことを条件に許可することにした。 

 おかげで高炉だけでなく製鋼工場も24時間フル稼働だし、鉄道も王都まで鉄道で線路資材を満載して運んでいる。

 鉄路工事の進行は資材調達の関係から、王都から南北西へ向かって遅々と行われている。



 鉄道や船の動力である蒸気機関の導入については、この世界の環境問題も含めて検討した。

 漫画の知識からすれば、いきなり電車や電気自動車の導入もできないことはないが、コストパフォーマンスが悪いことから廃案にした。


  例えば、ガソリンなど化石燃料自動車と、電気自動車では、違いはその使用場所の空気の清浄さなのだが、電気が水力や風力、或いは原子力などで発電されていれば良いが、火力発電では地球環境的には、悪影響は変わらない。


 加えて、発電所から電気を引くのには膨大なインフラ整備コストが必要とされる。

 また、その一体化された設備というものは、とんでもない弱点を持っている。

 21世紀の世界でさえ、大地震や台風などの天災ばかりでなく、ちょっした設備更新などの人災でも、設備が一体化しているために一部の被害の影響が巨大な被害に波及するのだ。

 それ故に、電気動力ばかりに比重を置くのはリスクがあるし、自動車を全て電気自動車にするなど、原子力発電所の建設ラッシュに繋がりかねない。

 そうでなくとも、夏冬の冷暖房で電力不足を招いている現実があるのだから。



 それから俺は、鉄道が開通し王都まで鉄道で行くことになった母さまや妹達のために、機関車の前面に顔の付いた機関車トーマスの列車を運行した。

 トーマスだけに人気集中しないように、貨車を引くヘンリーや、急行列車を引くゴードン、真っ赤な車体のジェイムズなども作った。


 予想以上に好評で、沿線の子共達が機関車に手を振り、機関車が返事の汽笛を鳴らす。

 踏切りなどの事故防止にも、役立っている。


 ちなみに汽笛の音だが、領内の遊園地列車はヤギの鳴き声で『めぇ〜、めぇ~』と鳴る。

 否、鳴く。通行人を、驚かさないためだ。

 最近できた王都内の列車も『モォ~モォ~』と警笛を鳴らす。

 いずれも、妹達のリクエストだ。母さまは、『キツネとかウサギが、かわいいわっ。』って言ってだけど、鳴き声がわからんっ。

 困った顔したら、腰をふりふり踊り出した。誤魔化しのキツネダンスらしい。

 おまけに『今年の冬には、セルミナちゃんのようなコートが欲しいわっ。』だってさ。

 ちなみに、セルミナのコートって、銀ぎつねの着ぐるみだよっ。母さま、年考えてよね。




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 鉄道建設は、ナルト王国でも始まっている。ナルト王国の高炉で生産された製鋼で南北線を建設中だ。機関車は、グランシャリオ領からの輸出。もうじき、王都から中部までは開通するそうだ。

 また、ナルト王国の支援で、バルカ帝国でも鉄道建設が始まっている。あの国は、東西に広大な地域があり、中央の一線だけでなく、北側の海回線と南側の魔の森沿いの内陸線の二本線を計画しているようだが、先に着工しているのは、内陸線だ。


 帝国が飢餓に陥った際に、その解決策を他国の侵略に求めた者達がいる国に、軍事力を高める支援をするのはどうかと思うのだが、ナルト王国の為政者は気付いていないのだろうか。

 愚かな侵略しか考え付かない貴族や衆徒が、そのままでいることを。

 そして、自分達にない豊かさを武力行使を、いとわず求める者達であることを。


 飢餓に陥った人々を救けることは、いとわない。 

 しかし、次にやるべきことは、安易に豊かさを与えることではない。

 自分達で工夫努力して改善する気概を持たせることだ。否、育てることだ。

 だから、教育。子供から母親、そして家族に広げる教育を早く行なうべきなのだ。



 バルカ帝国の遊牧民部族には、俺達も支援を続けていて、乳牛やトサカ鳥(鶏)を供与して、牧畜の強化を図っている。

 既に茸や萌やし、カイワレ大根の屋内栽培を行っているし、今後は発酵バターやヨーグルト各種チーズなどの乳製品を充実させるのだ。

 

 トリアス王子から、畜産酪農に先進的なモコウ族の村に、バルカ帝国の遊牧民部族を研修で派遣したいとの要請があった。

 相変わらず空気がまったく読めずに、平気で他者の気持ちを踏みにじる人だ。


『かまわないよ、生きては帰れないと思うけど。人でなしの次は、人殺しの味方ですか。』と返事を書いた。


 あの王子は、やっぱり馬鹿だ。殺されるという最大の恐怖を与えられた相手に、被害を受けた者達が親切になどできる訳がない。

 モコウ族にとっては、バルカ帝国は自分達を奴隷にしようとした恐ろしい人々しかいない国なのだ。その思いは生涯、消えることはない。



 その手紙に怒って、シルバラが説教をしに、飛行船でナルト王国まで出掛けて行った。


「兄上、あの依頼はなんですか。正気でできると思ったのですか。」


「もう戦争は終わったのだし、バルカ帝国の人々も飢餓を乗り越えるためとは言え、馬鹿なことをしたと後悔しているよ。

 戦争を望んた者達も処罰されているしね。

もう恨みを水に流し和解すべきだと思うよ。」


「呆れました。それは兄上がバルカ帝国に抱く妄想に過ぎません。

 このナルト王国にも、バルカ帝国に親子兄弟を殺され、辛く悲しい思いを堪えながら生きている人達が多勢います。その人達は、死ぬまでバルカ帝国を許さないでしょう。


 ましてや、モコウ族の人達は、同じ仲間である遊牧民に奴隷にされるか殺されるか、そんな目に会って、それよりはましと恐ろしい魔の森の中を逃げて来たのですよ。

 兄上より、ずっとっ、か弱い女性や子供が、魔の森で感じた恐怖を分かりませんか。

 あの人達にとっては、魔の森の魔獣よりも、恐ろしい存在がバルカ帝国の人達なのです。」


「えっ、まさか、そんなにかっ。」


「兄上は、たまたまユリカさんに助けられたから、遊牧民に好意的ですが、兄上以外には誰も遊牧民達から好意も親切も受けてません。」


「でも、ジル君も、飢える人々を見捨てずに、助けているではないか。」


「兄上、勘違いしないでください。ジル君は、戦争に関係のない飢える弱い子供達を救ったのです。

 その子らを守れずに、他国から略奪を考えた大人達は皆殺しにしたかったと言っています。 

 ただ、子供達のために生かしたそうです。 


 兄上、もう一度言います。兄上は人殺しの味方なのですか。それとも殺されそうになった者の味方ですか。

 人殺しの遊牧民のために、殺されそうになったモコウ族に親切を要求するのですか。」


「はぁ。俺が間違っていたよ。確かにユリカに親切にされたから、遊牧民達に好意的になったのだ。考えてみれば、ユリカとユリカの家族以外には親切にされていないな。

 いや、ユリカの部族の長老には、冷たく突き放されたな。あれはユリカに対してじゃない。俺に対してだったのだ。

 すまん、ユリカの恩義に報いたかったのだ。しかしそれは、相手を間違えていたな。」


「兄上、兄上はどこの国の人ですか。自分の国を放り出して、他国で遊んている時じゃありませんよ。

 こうしてる間にも、トランス王国では刻一刻と発展を続けていますよ。

 油断しているとナルト王国は、トランス王国の僻地より遅れた国になりますよ。

 じゃ、私はこれで帰ります。」



 この会話を部屋の陰で聞いていた者がいた。ナルト王と宰相のベクトであった。


『ふむ、シルバラはジル君の傍におって、賢さに磨きがかかっておるな。もったいないのぉ、あの娘が男であれば。』 


『陛下、いい方法がありますぞ。シルバラ王女を女王にして、トリアス王子を宰相に据える。

 となれば、ジルベール殿は王配ですな。

 平生は、トリアス王子が宰相として、政策を行い、大局は女王と王配が目を光らす。

 いかがでしょうか。』 


『その後の王位継承はどうするのじゃ。ジルはグランシャリオの嫡子じゃぞっ。』


『お二人のお子様にナルト王国を継いで貰います。幸いジル殿には、妹様方がおられます。

 また、奥方様のリザベル殿は未だお若くご次男を産まれる可能性もございますれば。

 グランシャリオ領は、盤石にございます。』



 なんて会話をしているのか。俺とシルバラはまだ11才だよ。それなのに、俺達の子の話だなんて、取らぬ狸の皮算用だよ。

 ましてや、トランス王国がジルの国外行きを絶対に見逃すはずがないのを、二人は失念している。 

 ここは、今はダメ王子でも、トリアス王子に成長してもらうしかないのだ。

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