第27話 妹達の冒険『不思議の杜』。

 俺とシルバラがバルカ帝国の救援に出向いていた頃、母さまと妹達は王都の屋敷にいた。

 いたずら、やんちゃ、お転婆な妹達は、屋敷の中を走り回るだけでは飽き足らず、再び妖精に会いに行くことを企てていた。


「どうちて、妖精しゃんに会えないでちゅか?」


「あいちゃい、あいちゃいっ。」


「ジル兄が言ってたわっ。たぶん、侍女さん達大人がいるとだめなのよ。」


「そいじゃ、三人でいくでちゅっ。」


「いくでちゅうっ。」


「無理よっ、侍女さん達は私達を護っているのよ。だから、傍を離れないの。」


「ちいちゃいトンネル、ちゅくりまちゅ。」


「あっ、トット。それ名案っ。小さいトンネルだけじゃだめよ。サラなら広げちゃうっ。

 トンネルいっぱい作って、隠れんぼよっ。」


「きゃくれんぽ? きゃれんぽぅ!」



 次の日、お昼ごはんを済ますと外へ出た三人は、侍女達に隠れんぼを提案する。


「ねっ、ねっ、隠れんぼしょっ。」


「えぇ〜、トットちゃん。それは困ります。

 皆様を見失なったら、護衛できません。

 だから、だめですぅ〜。」


「サァラは、トットをみちゅけられにゃいんだぁ。しかたにゃいにゃ〜。」


「そんなことありませんけどぉ〜、危ないからだめですぅ〜。」


「サラさん、皆様方と私達が手を繋いでなら、良いのではありませんか。」


「そうね、それなら、まあいいか。」


「やるでちゅ、やるでちゅっ。」


 そうして、隠れんぼが始まったのであるが、

始めのうちは、トンネルの新しい脇道を辿ると隠れているのを見つけられるが、次第にトンネルの脇道が増えると、どこにいるのか、分かりにくくなった。

 そして、屈んで進むうちに侍女達は、妹達に遅れ、遂には撒かれてしまった。


「えぇ〜、ミウちゃん、トットちゃんどこ〜。返事してくださぁいっ。」


「ミウだよ、ミウっ。」


「トットいまちゅよ、トットでちゅっ。」


「サラっ探してっ、皆んないるわよ。」


 侍女達は途方に暮れながらも、妹達を探し始めた。見つけたら、もう隠れんぼは、おしまいだからねと。




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 まんまと侍女達を撒いた三人は、打合せどおり侍女達の声から遠ざかる。そして、カエルの鳴き真似をして、居場所を教え合い合流した。

 なんとまあ、やらかすものです。さすがは、ジルの妹達と言うべきか。はたまた、母さまの破天荒な教育の成果なのか。

 そうして、大木の下へと向かったのである。


 ちび達三人が予想したとおり、子供だけだと大木の下に辿り着けた。

 三人は、大木に向い挨拶と願い事を唱えた。


『『『妖精さんに会わせてください。』』』 


 そして、ポトッ、ポトポトッ、と落ちてきたどんぐりを拾い、もと来たトンネルを辿った。



 やはりと言うべきか、願い叶って薄暗い妖精の池に出た。


「妖精さん、いるでちゅか。」


「いるわ、あそこよ。あそこの池のふちっ。」


 セルミナが指差すと、その場所から蛍のような光りを纏った妖精達が次々と舞い上がって、三人の周りを飛び交った。


「うわぁ〜ぃ、妖ちぇぃちゃんだぁ。」


「よ〜ちぇい、よ〜ちぇいっ。」



 セルミナ達が、その光景に見惚れていると、後ろで声がした。


「たいへん、たいへん遅れちゃうぞ。」


 振り向いて見ると、小道に服を着たウサギが立っていた。とても興味が湧いて、急ぎ歩き出したウサギの後を追いかけて見る。


「ねぇ、うちゃぎ服着てる。」


「帽ちも、かぶゅってるよ。」


「おまけに、メガネまで掛けてるわっ。」


 ウサギ紳士の服装は、燕尾服にシルクハットYシャツの襟には、スカーフを蝶結びに巻いた礼装で、シルバラ達にはそんなことはわからないが、なんかの儀式でも行くようだと思った。


 ウサギ紳士は、シルバラ達が付いて来るのも構わず、どんどん小路を歩いて行く。

 すると違う小路から、ドレスを着たねこ女性が現れ、ウサギ紳士と歩きながら、挨拶を交わした。


「これはキャシー嬢、貴方もお呼ばれですか」


「ええ、バックス。目覚し時計が鳴らなくて、遅れそうなのよ。間に合うかしら。

 あらっ、後ろの子供達は?」


「大方、見物でありましょう。さあ、急ぎますぞ。」




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 まもなく森を抜けて、お城が見えて来た。

塔のあるジル兄が言っていた西洋風のお城だ。

 お城の広場には、大勢の不思議な人達が集まっていた。正確には、人の服装をした動物さん達や人の顔と手足を持つトランプの兵士達。

 人と言えるのは、シルバラ達三人だけだ。

 そんな中にあっても、気にされてないのが、とっても不思議だ。


「これより、被告ラスカルの罪を裁く、裁判を開廷する。検事は罪状を述べよ。」


「しからば、被告は不埒にもハート女王陛下の寝室に忍び込み、女王の時間を盗みました。

 たがために、女王陛下は朝食に遅れ、女王の朝食は冷め切ってしまったのであります。  

 よって、被告ラスカルを百くすぐりの刑罰に処すことを求刑します。」


「弁護人は、弁護の申し開きを述べよ。」


「では述べさせていただきます。被告人ラスカルは、当夜宿直の任にあり、侍女のジェリーと共に女王陛下のお世話をしておりました。

 朝を迎え、ジェリーの指示で女王陛下を起こしに部屋に伺っただけで、なんらの罪も犯しておりません。よってラスカルは、無実です。」


「裁判長、証人ジェリーを召喚いたします。」


「証人の発言を許可します。」


「あの日、いつものとおり、いつもの時間に、女王陛下を起こすように、ラスカル殿にお願いしました。間違いありませんっ。

 でも、女王陛下が起きられて、ダイニングに着いた時には朝食が冷め切っていたのです。」


「裁判長。かような証言のとおり、正しい時間に、いつもと同じ時間を掛けて、女王陛下が朝食の席に着かれたにも拘らず、朝食は冷め切っていたのです。

 これはすなわち、女王陛下の朝食までの時間を誰かが盗んだということ。そして、それができるのは、被告人ラスカルだけであります。」


「裁判長、弁護人も証人を申請します。

 我がマジカル王国の、時空魔法の第一人者であるバックス卿です。」


 すると、シルバラ達が気になって後を付いて来たウサギ紳士が、法廷に進み出た。  


「時間の概念については、未知の概念であり、科学で言う物理の法則には当て嵌まりません。 

 何故なら、物を投げて描かれる放物線の映像を逆再生しても、映像が再生なのか、逆再生なのか分からぬのです。

 しかし、我々はその判別を行います。映像に投げた人物なりがあれば、その位置、動作から判断します。また鳥などが一緒に映っていれば飛ぶ方向から判断するのです。

 このように、時間とは一つの事象だけでは、判断できぬ概念なのです。

 それ故、女王陛下の時間を盗むとは女王陛下の周囲の事象も盗まねば成立しないのです。

 それは、常識的な魔法では不可能です。」


「裁判長、もう一人参考人を許可されたい。

 犯罪に掛けて、右に出る者がいないと言われる名探偵シャーロック•フォッグス氏です。」


 裁判長が許可すると、聴衆の中からベレー帽を被り、チェックのジャケットを着て、咥えたパイプを優雅に燻らせたキツネ紳士が現れた。


「皆さん、皆さんは女王陛下と被告人ラスカル及び関係人である侍女のジェリーの中に犯人を求めておられますが、忘れてはいけません。

 事件は、現場で起きているのです。


 その現場とは、どこか。女王陛下の寝室ではありません。そう、ダイニングであります。

 料理長、その朝の食事は誰が作ったのですか。その者は前日も調理した者ですか。」


「はぁ、その朝は新人のポカリの初めての朝食デビューでありまして、張り切って、夜も明け切らぬうちから、準備をしていたようです。」


「ポカリ君おりますか。君は朝食をいつ作り始めましたか。」


「えっ、はい。前任者に聞いたとおり、一番鶏が鳴いてから準備を始めて、手順どおりに作りました。」


「料理長の話によると、君は夜明け前から準備をしていたようですね。何をしたのですか。」


「はい、材料の下準備で、野菜の皮を剥いたり、手際よく調理ができるように、材料を並べて置きました。」


「君は、料理が出来上がる時間を指示されましたか。」


「はい、一番鶏が鳴いてから、調理を始め手順どおりに進めれば良いと言われていました。」


「裁判長、以上のとおりです。どうやらポカリ君は張り切り過ぎて、前任者よりも短時間で、朝食メニューを作ってしまったようですね。

 それが、この事件の真相の全てですね。」


「被告人ラスカルは、無罪。これにて閉廷。」


『わぁ〜すげぇっ。パチパチパチ。』


 それを聞いていた聴衆は、歓声と拍手の渦を作り出していた。シルバラ達も、見事な推理に拍手を惜しまなった。ミウは周りの興奮につられただけだ。


 聴衆がバラバラと帰り出し、シルバラも帰ろうと思って、はたと気付いた。帰り道が分からない。慌てて、ウサギ紳士に掛け寄り尋ねる。

 

「あのう、すいません。私達、帰り道が分からないんです。妖精さんの池に行くには、どっちに行けばいいのですか。」


「ああ、それなら、あそこのどんぐりの木の下で、バスを待つといい。急げもう来る頃だ。」


 お礼もそこそこに、教えられたどんぐりの木の下へ駆け出した。

 三人で『はぁはぁ』息を整えていると、突然バスがやって来た。

 そのバスには、車輪がない。代わりに足がある。バスの正面に回ると、ねこの顔がある。

 ねこの額の行き先の表示が、カチャカチャと動き『どんぐりの古代木。』に変わった。


「ねぇ、トットのおうちゅ、帰れまちゅか?」


 そう、トットが聞くと、バスのねこ顔がウンウン頷いた。どうやら、行けるらしい。

 ミャァという音で開いた扉からバスに乗る。

中の座席は、ねこ毛のクッションで、すごく気持ちがいい。

 ねこ顔のバスは、なんと木々の上を伝って飛ぶように走り、あっという間にあのどんぐりの大木に着いた。初めて、大木の全体を見たが、とてつもない大木で、周りの森の倍の高さだ。

 バスを降り、どんぐりの大木に別れの挨拶をすると、知らないうちに眠ってしまった。



 気がつくと、サラ達侍女に囲まれていた。

そこは、屋敷の近くの小路のトンネル。


「なんでこんなところで、三人揃って寝ちゃうんですかっ。もう隠れんぼなんて、絶対、絶対しませんからねっ。」


 怒っているサラの顔から涙のしずくが落ちている。心配かけてごめんね。

 

 

 屋敷に戻ってみるとまだ陽が高い。侍女達に聞くと寝ていたのは、30分ほどの間らしい。 

 不思議だ。ウサギ紳士の博士が言っていた、時間の魔法は本当にないのだろうか。 





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