Sid.20 家庭裁判所から呼び出し

 うちを担当する調査官が決定して、やっと審議に入るらしく、家裁より来所通知が来たそうだ。

 通知書を見て緊張感の増す父さんと母さんだな。

 家裁に出向いて調査官と顔を突き合わせ、いろいろ質問をされるらしい。


「事前に想定される質問に対して、互いに答えを揃えた方がいいらしい」

「でも、どんな質問してくるの?」

「養子を迎える理由とか経緯だな。ここで互いに齟齬があると、さらに突っ込まれる」


 その他には普通養子縁組と、特別養子縁組の違いを説明されるとか。

 父さんは違いを理解してそうだけど。

 母さんは裁判官が親身になってくれるのかどうか。その辺もかなり気にしてるようだ。


「裁判官って、テレビの印象だと堅物で、冗談も通じそうに無いけど」

「刑事裁判ではそうだろうな。冗談を言える雰囲気じゃ無いだろう」


 扱ってる案件は裁判員裁判の場合、凶悪なものなどだから、終始真剣に向き合う必要がある。

 じゃあ、養子縁組など民事となるとどうなのか。こういった情報はあまり伝わって来ない。

 父さんがいろいろ聞いて回って、事前にある程度の流れは聞いたそうだけど。


「親身になってくれるの?」

「それは分からない。裁判官なんてのは公務員の中で、最も融通効かない部類だろうし」


 裁判官が融通利かせるようだと、法治国家が成り立たないのもある。

 事実を調査し粛々と手続きを進めるのだろう。


「ただ、裁判官じゃなく調査官との面談だからな」


 あまり緊張しすぎても意味はないと。

 調査官ってのが何なのか、素人にはさっぱり分からないが。裁判官並みに厳格だと、冗談も通じないとかあるのかも。


 後日、指定された日に訪問する両親だ。運を天に任せる、なんて気は無いらしく、事前にこれでもかと打ち合わせをしていたけどな。

 なんとか認めてもらえるよう、最善を尽くすと気合も入ってた。

 必要書類として身分証とか、資産や収入証明に預金通帳、育児に関する資料と言っても、せいぜい母子手帳と日記くらいだけど。それ以外に法定代理人による同意書も用意してたな。

 前日に持参するものをふたりで確認してたし。


 当日の朝、気がかりではあっても、学校に行かなきゃならんし。乃愛は幼稚園に送り出された。

 帰宅後、すでに父さんも母さんも帰っていて、少し神妙な面持ちをしてるようだ。


「どうだったんだ?」

「調査官は親身になる感じだったけどね」

「だいたいうまく説明できた」

「でも、それぞれ分かれて個別に質問された時はねえ」


 事前の打ち合わせ通りに、ある程度は進んだが、それ以外の部分もあって失敗もあった気がするそうだ。

 帰りに互いの答え合わせをしたが、打ち合わせ通りで同じ答えになったとか。

 その辺ではうまく対処できたと。乃愛を引き取る意思は父さんも、母さんも強いってことだよな。

 ついでに、調査官の人柄も悪くはなかったらしい。


「金銭面では問題無いけどな」


 まあそうだろう。アパートを所有してるだけじゃなく、父さんは仕事もしてるし。

 しかも二棟所有してて各々単身向け十戸と、ファミリー向けを六戸。比較的安定した収入を得てるわけで。

 子育てに関してもすでに経験済み。俺を育てたわけで。しかも偏差値で言えば七十の県立高校。教育にしても世間一般で見れば、しっかりしてる方だろう。

 だからか、養親としての印象は良かったんじゃないかと。


「あとな、やっぱ半年の監護期間は要求される」

「三年も面倒見てるのに?」

「毎日じゃなく、預かってたって程度だからだな」


 仮に申請が通って成立した場合でも、最短二百日以上は掛かるとか。

 先は長いな。


 乃愛の帰宅時間になり迎えに行くと、いつも通りに「ぱぱぁ」と言って抱き着いてくるし。

 それを微笑ましい表情で見る幼稚園の先生だ。


「そう言えば、乃愛ちゃんのことだけど」

「今手続き中です」

「そうなんだ。じゃあいよいよ」

「まだ先は長いですけど」


 バスを見送り乃愛を連れて家に入る。

 すっかり定番になった俺の膝の上に、どかっと乗っかり寛ぐ乃愛だな。暑苦しさは相変わらずだけど、この距離感も最近では心地良い。


「今後、調査官が直接訪問するそうだ」

「家に来るのか?」

「家での過ごし方も見るんだろ」


 二か月後から三か月後くらいに来るらしい。家での生活ぶりや乃愛との接し方を見るとか。また乃愛に何某か質問することもあるかも、と。

 意思疎通が図れる年齢だからな。当然、うちに居て楽しいのか、不平不満は無いかとか、聞かれるんだろう。特に昨今では虐待の可能性もチェックされそうだ。まあ、そんなことは一切無いから、堂々としていればいいわけで。

 乃愛を見ると不満は、あれだ。俺の股間を触れないなんて、そんなアホなことを言い出さないことを願う。


 週末になると菅沢が家に来る。

 母さんが小遣いを渡して来て、先日行った屋外遊園地に行く。

 散々遊び倒すと乃愛をおぶって帰宅する。今後しばらくは、これが定番になりそうだ。


「乃愛とすっかり仲良しだな」

「でも、横倉君と比べると、まだ少し距離を感じるかな」

「それは仕方ないだろ。接してきた時間も違うんだし」

「だからね、もっと頑張る」


 俺から乃愛を奪うってのか? あいにくだが、そうは問屋が卸さないぞ。

 家に帰ると父さんと母さんが出掛けるようだ。


「どこ行くんだ?」

「これ、渡しておくから」


 手を出せと言われ握らされる小遣い。


「なんで?」

「それで店屋物でも」

「いや、だからなんで?」

「たまには夫婦で外食」


 なんか、魂胆が分かった気がする。気を利かせて出るから、その間にやることやれと。どうせ菅沢も期待してるだろうし、俺もさっさと卒業したいだろうって。


「帰りは十一時頃になるからね」


 つまりそれまでに済ませろってことかよ。余計なことしなくていいってのに。ましてや乃愛が居て何ができるんだよ。どうせなら乃愛も連れて行かなきゃ、意味が無いだろうに。目の前でするわけにもいかないんだし。

 だが、こっちの想いとは裏腹に、さっさと出掛ける父さんと母さんだった。


「じゃあ、しっかりやれよ」

「避妊具はベッドサイドに置いてあるからね」


 アホだ。

 にやにや、いやらしい笑みを浮かべやがって。

 リビングに戻ると菅沢が立っていて、顔を赤らめてるんだよ。


「あのね」

「言うな。乃愛が居たらできないだろ」

「じゃなくて」

「なんだ?」


 乃愛を風呂に入れて寝かせてしまえば、こっそり、なんてことを言ってるし。なんかやたら旺盛だなあ。

 やっぱ菅沢ってエロいんだ。


「横倉君、期待してるでしょ」


 あんまり待たせても悪いと思うらしい。いやいや、俺は待てる。たぶん。乃愛が居ることが歯止めになってるわけだし。

 だが、素知らぬ顔をして乃愛を風呂に連れて行く菅沢だ。


「一緒に入る?」


 思わず心が揺れ動いただろ。


「ぱぱも、いっしょに、はいるぅ」

「だよね。一緒がいいよね」

「いや、なんか違う」

「ぱぁぱも、いっしょぉ!」


 俺に縋り付いて手を引く乃愛が居て、期待してそうな菅沢が居て、どうすりゃいいんだよ。親が居ないってことで、菅沢も箍が外れて無いか?

 さすがに三人は狭いのと、乃愛が確実に握るから駄目だ、と断った。

 残念そうな乃愛と、だからなんで菅沢まで残念そうなんだよ。乃愛が寝てからでも充分だろ。


 ふたりが風呂から上がると俺が入るのだが。

 バスルームのドアがノックされて「乃愛ちゃん、寝かせたから」と、一緒に入り直すとか言ってる菅沢が居た。

 ドアを開けて見ると準備万全じゃねえか。エロ過ぎる。

 乃愛が居ないなら躊躇する理由もなく、ついに卒業を果たしたけどな。避妊具はわざわざ持ってきたようだ。


「なんか痛そうだな」

「少しだけ」


 そうか、男は楽だなあ。

 童貞卒業したけど、だから何だって話しだな。女子はそれ相応のものがありそうだけど、男子はあれだ、感触。手とは違うと知った程度で。

 あとはさすがに興奮度マックスだと、漏れるのも早かった。いつもは違うと言いたかったが、いちいち言うのもあれだし。

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