Sid.21 幼女は今日も元気だけど

 いつもと変わらぬ風景がある。

 慣れたもので、朝起きると時々おねしょの後始末。着替えを済ませ朝飯を済ませて、俺は学校へ行き乃愛は幼稚園に行く。

 帰宅すると乃愛のお迎えに出て、少しの時間、遊び相手となり晩飯に。


「乃愛は、この家にずっと居たいか?」


 小さな手で箸を持つも上手に扱えるわけではない。それでもせっせと口に運び、もぐもぐ愛らしく食事をする乃愛に聞いてみる。

 結構、辺りに零してたりするが、いちいち咎めたりはしない。

 俺を見て「うん」と元気よく頷き返事をする乃愛だ。頷いて返事するのはいいが、その際に飯を豪快に零すんだけどな。それもまた愛らしい。


「俺がお兄さんになったら嬉しいか?」

「ぱぱだよ」

「いや、パパは俺の父さんで、俺はお兄さんなんだが」

「ぱぱじゃないの?」


 これ、いつの間にか完全に定着してるんだよ。

 それでも言えば理解できる年齢になってるはず。パパではなく兄であると認識して欲しいんだが。


「パパでいいじゃないの」

「じゃあ父さんはなんだ?」

「じいじ」


 母さんは面白がってるのかどうか知らんが、俺をパパで定着させた張本人だな。

 まだ幼いうちは、パパと呼ばれてても問題ないかもしれんが。この先、中学生や高校生になってもパパだと、危ない関係性だと思われるだろ。

 さすがにその年齢になれば、乃愛であってもパパなんて呼ばないと思うが。

 大丈夫だよな?


 食後はリビングで寛ぎ、すっかり馴染んだ膝の上で楽しそうに鼻歌を歌う。

 最近ではテレビで流れる曲なんかを、上手とは言わないまでも口ずさむ。さらにはお笑いバラエティなど見ていると、真似しやすいネタを真似ることも。

 膝の上でお人形さん遊びもあるし。


「ぱぱ、あかちゃんに、おっぱい、あげるんですよ」

「いや、出ないから」

「じゃあ、ままのおっぱい、あげましょうね」


 誰とか言うまでもなく、母さんを見て「あかちゃんが、ほしがってるんですよ」とか。

 そうすると「お腹空いてるの? じゃあ、ママがたくさんあげるからね」とか言ってるし。まさかベロンとむき出しにする、なんてことはさすがに無く、あげる仕草をするのだが。


「ちゃんと、あげないとだめですよ」

「そう?」

「おなかすいてるの」


 だから、マジで出すなっての。

 くたびれた感のある親の胸なんて、見たくもないものを見る羽目に。だが、そうしないと納得しないのが乃愛なんだよな。


「蒼太にもあげようか?」

「要らん」

「乃愛ちゃんは欲しい? 出ないけど」


 人形を抱えながら母さんの傍に行き、抱っこされて少し戸惑いながらも、顔を埋める乃愛が居る。

 片側にお人形さん。片側に乃愛が吸い付く光景は、ある意味ほのぼのとしているが。別の角度で見ると異様な光景に感じる。

 本来は母親に甘えたい時期に、充分な愛を受けられなかった。だから母さん相手に、この時だけは本気で甘えるのだろう。俺じゃあ無理なこともあるからな。


「俺が見てるんだけど」

「なに? 母親に欲情してくれるの?」

「するわけ無いだろ」

「同じようにしたいなら遠慮要らないからね」


 たまには親の愛情と乳を満喫してもいい、なんてアホなこと言ってるし。

 要らねえんだよ、少なくともその萎びた物体は。

 菅沢はぼよんぼよんで張りがあったよな。良く弾む感じだったし。あれも年食うと似たような感じになるのかもしれんけど。


 存分に甘えて満足すると「ぱぱ、おふろはいるんだよ」と手を掴まれ、風呂場に連れ込まれる。

 風呂好きな子は清潔でいいが、乃愛の場合はなあ。


「ちんち、あらってあげる」

「自分で洗える」

「せなかあらってあげる」

「それなら」


 力が弱い。くすぐったいんだよ。もう少し強めに擦って欲しいとか、そう思うけど文句は言わない。

 背中を流してる間に、自分の股間を洗っていると、覗き込んで「のあがやるー!」とか言い出して、騒ぎ出すから手に負えん。

 娘を持つ父親はどうしているんだろうか。洗わせる親も居るんだろうけど。あとで母親に怒られたりしないのか? 母さんはその辺アホすぎて、握らせればいい、なんて言ってるけど。

 マジで握らせたら変態だ。


 風呂から上がると自分で体を拭くようになった。

 ドライヤーで乾かすのは相変わらず俺の仕事だけどな。

 髪が乾いて少しのんびりしたら、乃愛を先に寝かしつけて、リビングで勉強をするの日課になった。乃愛の寝ている部屋で勉強はできないし。


「あのさ、ベッドだけど」

「ベッドがどうかしたの?」

「小さいんだよ。寝返り打ったら乃愛が潰れる」

「じゃあ大きいのにする?」


 じゃなくて、乃愛もそろそろひとり部屋にしても、と思ったんだが。


「ひとり」

「まだいいじゃないの。もう少し一緒に寝てあげなさいって」


 実の母親が居ない状況下で、存分に甘えられる存在は必要だと。

 甘やかし、とは違う愛情を注ぎ込んでくれる相手。これは精神の真っ当な成長にも必要だとか。

 その役割を今は俺が担っているのだそうだ。確かに乃愛を大切に思う気持ちは、以前に比べれば滅茶苦茶強くなった。

 ただなあ。


「女の子」

「意識しすぎ」


 帰宅してビール飲みながらテレビ見てる父さんは、我関せずで知らん顔してるし。

 普段のことに口を挟む気は無いらしい。子育てのほとんどを母さんが担ってきたからだろう。今さら口を出すと文句を言われるだろうし。今まで放置してて今さら口出すな、なんて。


「母親の愛情なら母さんが適任だと思う」

「蒼太に一番懐いてるでしょ。心の拠り所になってるんだから、それに応えてあげればいいだけ」


 結局、ダブルベッドなら買ってやるから、ふたりで乳繰り合えばいい、じゃねえっての。如何わしい方向に行ってどうする。相手は幼女だ。これが菅沢なら理解もするけど。

 ダブルベッドで萌えか。


 土曜日になると菅沢が遊びに来る。

 母さんはいやらしい笑みを見せる。これ、バレてるよなあ。

 小遣いを渡され「遊んできなさい」と。

 前回行った屋内型遊園地へ行き、しっかり遊ばせて疲れ切った乃愛を、背中に背負い帰宅する。


「すっかり仲良しだな」

「懐いてくれると嬉しいから」

「母性本能って奴か」

「分かんないけど、子どもは可愛いって思う」


 乃愛を見ると自分の子どもが欲しくなる、とか言ってるし。子どもを儲けるには、先日のあの行為を繰り返すわけで。期待してんのか? 菅沢は。相当エロい性格の持ち主、なんて思うも、子どもが欲しいのはまた別なんだろう。

 まあ、協力するに吝かではないし、いずれの話だ。

 俺が菅沢を見ていると「まだ無理だよね。子どもを持つのは」だそうだ。

 そりゃそうだろ。たかが高校生の分際で子持ちなんて。


「最低限、社会に出て安定したら、だろうな」

「そうだよね」


 しっかり汗を掻いているから、帰宅後には菅沢が乃愛と風呂に入る。

 先日のラッキースケベは、さすがに無いだろう、今回はタオルも準備してあるし。


「ぱぱぁ!」


 ドタドタ全身濡れネズミ状態の乃愛が、風呂から抜け出してリビングに来る。


「あ、こら。あちこち濡れるだろ」


 なんて言ってると慌てて飛び出してきたのか、菅沢が全裸でリビングに来るし。父さんが居なかったから事なきを得たが、母さんに頭下げて「すみません」とか言ってる。


「乃愛ちゃんが一緒じゃないと嫌だとか言いだして」

「蒼太のがお気に入りだからねえ。どうせだから一緒に入って来なさい」

「いや、まずいって」


 裸を見てるし菅沢も隠す気ないんだから、問題は無い、と言ってリビングから押し出された。


「いいのかよ」

「あの、あたしは構わないから」

「ぱぁぱ。いっしょにおふろはいるの」


 当然だが、三人で入るには風呂は狭い。それでも入ることになった。

 もう、この後の大惨事は口にはできない。


「すごかったね、あの、あれも」


 菅沢に意識が向けば大人しくしているわけがない。俺の股間だが。

 それを見た乃愛がどれだけ暴れたかなんて。


「変態だろ」

「仕方ないよ。あたしは気にしないから」


 今夜できそうなのかなと、期待してそうな。

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