大事な日

「ミューズ様と一緒なんて嬉しいですわぁ」

「私も嬉しいわ、今日は大事な日だものね」


パーティ会場にて友人と楽しく過ごせるのは嬉しい。

本日のエスコートは父に頼んだ。


オスカーは仕事で忙しいし、寧ろ今日こそ最も忙しいだろう。  

来賓のパルス国国王陛下への挨拶時に少し見えたくらいで、メィリィも話せてはいない。




イヴァンは婚約者と共におり、ダラスは知り合いへの挨拶まわりで離れていた。


今はメィリィとミューズ、そしてミューズの護衛騎士のライカが、少し後ろで控えている。


「ルアネド陛下も素敵な方でしたね」


パルスの国王、ルアネドはまだ年若い。


混乱する最中に何とかパルス国の争いを鎮め、今は幼馴染の才女と結婚し、力を合わせて統治しているようだ。


このように国外でのパーティに参加するのは暫くぶりだそう。




「初めてお会いしましたけどぉ、とても優しそうな方でしたねぇ」


父と共に挨拶をしたのだが、穏やかな優しい瞳で見つめられた。


隣にいた王妃もにっこりとこちらに笑顔を見せてくれていた。


とても緊張していたが、好意的な感情を感じられたので、少しリラックス出来た。


「その後ろのオスカー様も素敵でしたわ。メィリィ様とお揃いの衣装ですよね?」


本日のメィリィのドレスは水色から紺へと変わっていくグラデーション調のドレスだ、

右肩を、大きく出したワンショルダータイプの形で、左肩から胸にかけて大小様々な造花をあしらっている。

胸の大きさは自信がないのでふんわりとしたオーガンジーを用いて誤魔化している。


スカート部分は切り返し部分で色の濃淡を変えた生地を使用し、グラデーションを表現した。

スカート部分には、針子達が一生懸命刺繍してくれたレースが使用されている。


装飾品にはや橙味がかったシトリンが使われている。


メィリィの蜂蜜色の髪色に合わせたものを、オスカーが取り寄せ加工を頼んでいたのだ。




オスカーが着ていたのは紺色の騎士服。


髪型は軽く結うくらいのシンプルなものだった。

本日の髪色は白一色。


白のマントを羽織り、金糸と銀糸での刺繍を施していた。


胸元には白いバラがある。




オスカーの魔法は、植物を操るものだから、常に何らかの花を用意していた。

種子からだと持ち運びしやすいが、タイムラクが生じてしまう。


しかし男性がただ花を持つのは目立つため、いっそ全てを派手にしようと思ったとオスカーは話していた。


どこまで本当かはメィリィにはわからなかった。






オスカーの紫の瞳は絶えず周囲を警戒し、珍しく険しい顔をしていた。


大事な仕事に、さすがのオスカーも緊張している。


メィリィを見た時だけはふわりと優しい光を讃えていたが、気付く者は少なかった。


側にいたパルス国国王のルアネドは気づいていたが。






「ティタンは今親しい友人と話をしてるの。少し女同士でお話してましょ」

「いいですねぇ」

軽食を口にしつつ、メィリィとミューズは楽しく会話をしていた。


気軽なゆったりとした時間だ。




「メィリィ=ヘプバーン伯爵令嬢」


不意に声を掛けられた。


見覚えのある男性。

メイリィは顔を強張らせる。




「覚えているか?そなたに恥をかかされた者だが」

ドレスに不備があると返却しにきた男性だ。


「覚えておりますぅ、その節はどうもぉ」

恥をかかされた、の部分には触れなかった。


あれから出禁にしてたし、メィリィも店に行っていないから、来てても会うこともなかっただろう。


今日会う可能性までは失念していた。

浮かれていたからというのは否めない。


ミューズと一緒なのが心配だ。

彼女を巻き込まず終われるだろうか。


少し離れたところにいるミューズの護衛が、表情も変えず剣に手を掛け、身構えている。


ミューズも表情を消し、何も言わず様子を見ていた。


「その令嬢はご友人か?それもまたメィリィ嬢のデザインしたドレスなのか。このような場でそのようなドレスを着せられるなんて、可哀想に」

「可哀想?」

さすがのミューズもその言葉には嫌悪感を滲ませた。


突如割り込んできたどこぞの貴族に侮辱されたくない。




護衛のライカが魔石に向かい、何かを小声で話しているのが見える。

目線はミューズの方から離しはしない。


「メィリィ嬢の店が強盗に襲われたのはご存知ですか?しかも同業者に襲われたと。それだけこの令嬢は周りに疎まれているってことですよ。

そしてドレスに針が入っていたのに賠償もせず、証拠隠滅をはかってそのドレスを強奪しました。デザイナーの風上にも置けない者ですよ」


一部は真実だが、一部は違う。


「何を言うのですかぁ、そんな事してませんけどぉ。偽証をして代金とドレスを奪おうとしたのはぁ、そちらじゃないですかぁ」


真っ向から反論する。




このような場で言い返すなどしたくなかったが、周囲の目もある。


反論せねばただ悪評をばら撒かれて終いだ。


相手としてもメィリィの悪評をばら撒くのに、今日は絶好の機会なのだろう。


「あの時割り込んできた派手な騎士、あのような者まで味方につけるとは、メィリィ嬢はそういった事もお上手なのですな」


男たらしとでも言いたいのだろうか。




「あなたが無理矢理にぃドレスを奪おうとしたからではないですかぁ。オスカー様は騎士としてぇ、私を庇っただけですわぁ」


オスカーの名に少し怯んだようだ。


派手だが、王太子の護衛騎士として有名だから大概の貴族は耳にしたことはあるはずだ。



「…これだから女が働くとロクでもない事になるんだ」

今度は女性差別だ。


働く女性は今や増えている。

賃金だけの問題ではない、好きな事を仕事にしたいのだ。


自分を貶めたいだけだろうが、職業婦人を馬鹿にするのかとメィリィはムッとする。


「ミューズ、待たせた」


ライカが先程知らせていたようで、ミューズの夫が戻ってきた。

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