顔合わせ

「私はメィリィと申しますぅ、よろしくお願いしますねぇ」

顔合わせの日、メィリィはオスカーの雇っている針子達に挨拶をする。


「「よろしくお願いします」」


良い子そうな子が多い。


中には少し不信の目も向けられるが、ある程度はしょうがない。


急に現われた伯爵の婚約者兼デザイナーだ。


オスカーの服作りを担当していた彼女達も、いくらか自負があるだろう。


そのような事を気にする素振りも見せず、メィリィは話をすすめた。

仕事上の付き合い、仲良く慣れれば一番良いが、無理に馴れ合う必要もない。

「皆さんにはぁ、こちらの制作をお願いしますねぇ」

オスカーと詰めたデザイン案を見せる。


「こちらを期日までに作って欲しいのですぅ。途中気になることや相談があれば、私までお願いしますねぇ。暫くオスカー様はお忙しいのでぇ、私を通してになりますわぁ。オスカー様からもよろしくと頼まれてますの」

一部に刺々しい反応を感じるが気にしない。


何かあればオスカーに報告するだけだ。

仕事さえしてくれれば取り敢えずはいい。


時間もないし、信頼関係構築はオスカーが居る時になりそうだ。





「ただいま。メィリィがいると屋敷が華やかね、嬉しいわ」

少し遅い時間にオスカーは帰ってきた。


「お帰りなさいませぇ、オスカー様が一番華やかですわぁ」

オスカーは、出迎えに来てくれたメィリィの頭を撫で撫でする。

「ありがとね」

今日のオスカーはまた初めて見る髪色だ。


「ヴォルフ、変わったことは?」

「本日はメィリィ様と針子達の初の顔合わせがありました。詳細はメィリィ様よりお聞き下さい」


「そう。メィリィ、どうだったかしら?」


脱いだ上着を侍女のエマに預け、メィリィに向き直る。


「そうですねぇ、大丈夫そうかと思いますよぉ」

少しだけギスギスした雰囲気はあったが、ほんの少しだ。

仕事はきちんとしてくれてる。


メィリィの採寸をし、早速型紙作りに入ったし、生地選びもして、出来る部分での裁断も行なえた。


「後でニーナにも手伝ってもらってぇ、オスカー様の採寸もしたいですぅ。ニーナにはしょっちゅう私の採寸をお願いしてるから、手慣れてますしぃ。入浴後などいかがですかぁ?」


「あら入浴後?何なら一緒に入ってからにする?」


軽装になってからの方が正確に測れると思っての提案だ。

そんなお誘いは想定しておらず、メィリィの顔は赤くなる。


「オスカー様」

ヴォルフの咳払いにオスカーは「冗談よ」と笑う。





「オスカー様の服はぁ、こちらを参考にお願いしますねぇ」


昨日ニーナと共に採寸した数値を針子に伝える。

幾人かには足りない生地の買い出しを任せた。



それを元にオスカーの分の型紙作りが始まった。


本人がいない分合わせが難しいので仮縫いし、メィリィがオスカーに会えた時に調整をして、少しずつ形にしていく。



やはり服作りは楽しい。

メィリィはそう再確認した。



メィリィの店は再開しているが、あれから全く行けていない。


今はこちらにかかりきりだから、終わったら顔を出したいものだ。


「メィリィ様、こちらを確認して頂きたいのですが」

「キレイなレースですぅ。ステッチがとても丁寧だわぁ」


服作りを通して針子達とも親しくなっていった。




「久しぶり、捗っているかしら?」

仕事途中だというオスカーが手土産を持って様子を見にきた。


「オスカー様!」

慕われているのがありありとわかるほど、針子達の声が上擦る。

嬉しそうな表情と明るい声。


「メィリィは大丈夫?無理はしていないかしら」

針子達への挨拶もそこそこに、オスカーはメィリィの元へと歩み寄った。


「大丈夫ですぅ。皆さんお優しいし、凄く丁寧に仕事してくれますよぉ」

「アタシとあなたの大事な服だもの。丁寧じゃなきゃ困るわ」

ちらりと、針子達に目を向ける。


「あなた達の今後の評判にも関わる大事な事だから、頑張って頂戴ね。腕が認められれば専属への道もあるわよ」


オスカーの言葉に士気が高まる。


「メィリィ、アタシも早くあなたと服作りをしたいわ」

そっと壊れ物を扱うように抱き締める。


紛れもなくメィリィはオスカーの妻になる人だと、遅ればせながら針子達も実感した。


「その時を楽しみにしていますぅ」

書き溜めたデザイン画と共に、メィリィもまたオスカーと話すのを楽しみにしている。


ほんの数分だったがオスカーはすぐに行ってしまった。


しかし作業場の雰囲気は一転し、団結の思いとなった。


主のため、そして自分たちの為にも、期日までに最高の衣装を揃えようと一丸となったのだ。


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