第5話 冒険の終わりと、エピローグ。最後の信託を受けた事。

 毒草はすぐに見つかった。

 あれだけ流行している薬の原材料で、それだけの数が必要と言う事なのだろう。

 敵は大胆にも広大な畑を作り、大量生産していたのである。


 とは言え警備は厳重で、盗み出すのも容易ではない。

 しかも神獣スライムを進化させるのには、ある程度の量を食わせなければならず、さらには一気に与える事も出来なかった。

 神の毒なので、少量を定期的に与えなければならなかったのである。

 しかし、俺はなんとか正気を保てていた一部の冒険者や工業ギルドの協力を得て、なんとか毒草を必要量集め終えた。

 ついに神獣スライムを進化させる時が来たのだ。


「我が神、ジェリミムよ。奇跡を!」


 神獣スライムは光に包まれる。

 そして特別な進化が訪れた。

 捕食動物にも、悪しき心を持つ人間にも捕まらず、毒草を主食とする新しい獣に。


「よくやりました。我がしもべ、ラウイッド・スウジャよ」


 ジェリミムはいつの間にか美しい大人の女性に成長していた。


「今からこの神獣スライムに繁殖能力を持たせます。準備は良いですか?」

「ああ、頼む」


 瞬間、俺は世界が救われる光を見た。

 神獣スライムは膨れてはじけ飛び、飛沫のような小さな雫が、空を渡って行く。

 世界中に散っていったのだろう。

 西へ東へ。あらゆる方角へと虹の線が流れていった。


「お疲れ様。我のしもべ


 ジェリミムの声が聞こえる。

 いつの間にか美女は消え、その姿は思春期少女のジェリミムに戻っていた。


「ちょっと、疲れちゃった。でも、しもべは心配しないでよね。もう、仕事はこれで終わりだし。この後、世界中に飛び散った雫が成長し、毒草を主食とする新しいスライムが誕生するの」


 ジェリミムの姿が、縮んでいく。

 もう、小娘だ。


「しかし、楽しかった。お菓子も美味かったぞ。昔はあんな物なかったからなぁ」

「お、おい、どこまで小さくなるんだよ」


 ジェリミムの縮小化は止まらない。


「我にはもう、力なんて残ってなかったんじゃよ。しもべが取り戻してくれた分も、全部、使ってしまった」


 幼女ジェリミムは無邪気に笑った。


「我のするべきことは全てやった。我が起こした奇跡の余波で、じきに幼馴染も目を覚ますと思う」


 そして姿はぼやけ、薄くなっていく。


「お、おい! ジェリミム。お前、体が消えて……」

「気にするな。我はどこにでもいる。会いたくなったら、スライムがいるところに、我の存在を感じて欲しい」

「待てよ! これでさよならなのか? 嘘だろ?」


 もう、見えない。

 どこにいるかもわからない。


「ありがとう。君を選んで本当に良かった」


 ジェリミムの声も聞き取れなくなっていく。

 だが、最後の声ははっきりと聞こえた。


「我がしもべ、ラウイッド・スウジャよ。今から、最後の神託を授ける。人として、幸せに生きよ」


――


 ジェリミムが消えた後、スウスウは目覚めた。

 そして神獣スライムの種は世界中で増殖し、件の毒草を食い始め、食い尽くすのも早かった。

 魔王の勢力は急速に衰え、薬が切れて正気に戻った人々の反乱により、あっという間に滅びたようだ。


「ジェリミム神が邪悪と言うのは杞憂だったな」


 スウスウは言う。


「思えば上手いやり方でもある。薬で従えていたとは言え、魔王個人が崇められ過ぎていた。あの状態で死ねば、下手すれば新しい神として生まれ変わっていたかもしれない」

「新しい神?」

「真偽は分からんが、神話にそう言う話が残っている。神託を悪用した人間が神になると、神託を与えていた神は邪神になるとも伝わっているし、あれは毒の神を助ける方法でもあったのだろうな」


 何はともあれ、全ては丸く収まった。

 神獣スライム達は毒草を食いつくした後、急速にその数を減らしたが、一部の個体は自然の生態系の中で他のスライムとは交わらずに、静かにひっそりと生き続けている。


 世界に平和が訪れた。

 だが、いつまた世が乱れるかは分からない。世界は未だ不安定なのだ。


――


 と思ったら、俺達の前に光が現れて、中から幼女が降臨した。

 しかも二人だった。


「我は毒の神『ベネドゥ』」

「そして我はスライムの神『ジェリミム』。さぁ、選ばれし者たちよ、神託を授けるぞ! お腹を空かせている我らのために、お菓子を持って来い!」


 スウスウは呆気に取られ、俺は神託にツッコミを入れていた。


「私利私欲じゃねぇか! いい加減にしろ!」


 おわり

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スライム神のしもべ 秋田川緑 @Midoriakitagawa

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