第4話 世界の危機の正体と、スライムの生存戦略の事。戦い方の事
俺はスウスウの工房に向かっていた。
スウスウなら事態を把握していると思ったからだ。
と言うか、スウスウも俺を探していたらしい。
受付で顔を見るなりスウスウの部屋に通らされた俺は、ギルドで冒険者仲間にもらった瓶を見せた。
「これを飲んだ奴の様子がおかしい。ヤバい薬だろ、これ」
「ああ。これは嗜好品として大流行している薬で、この工房でも解析を進めていた物のだ。最初はちょっとした興奮剤やらがあるだけの子供だましだと思ったのだが、どうも妙な物が混ざっていたらしい」
「妙な物?」
「恐らく、毒だ」
実に深刻な顔の女、スウスウ。
「成分が解析できない。だが症状は分かる。意識が弱くなり、周囲の物が自分に都合の良いものに見えてしまうんだ。だから、流行っていた。自分で飲むまで、その効用は、分からなかった、が」
「お。おい。スウスウ?」
スウスウの様子がおかしい。
ふらついたスウスウに慌てて駆け寄ったのだが、脂汗を浮かばせている。
自分で飲んだ?
それにしてはどうも変だった。
顔色が悪すぎるのだ。
「私の体質とは、合わなかったらしい。少数だが、この町でも同じ症状で倒れている人間がいる。来てくれて本当に良かった。私はもう、限界だったよ。こいつは、恐ろしい毒薬だ」
倒れそうになるスウスウ。
慌てて抱きかかえたが、ぐったりしていて、あまりにも軽い。
「ラウイッド。南だ。薬を仕入れた商人からの証言だ。南に、こいつを作っている奴がいる。犯人も分かっている」
「犯人? 誰が?」
「『魔王』だ。つい最近、魔王を名乗り、武力蜂起した連中だ。人を催眠状態にして従わせている邪悪な連中で。恐らくその催眠にはこの薬が使われている。これは侵略だよ、ラウイッド。事前に薬を流行らせて、戦わずに催眠で自分たちの仲間に引き込むやり口だ。このまま侵略が始まれば、簡単に奴の勢力下に落ちてしまう。この町だけでは無く、この薬が出回っている場所、全てが」
スウスウはウッと呻くと、嘔吐した。
咳き込んで、胸を数秒抑えると、震える手で俺の手を握った。
「すまん、ラウイッド。最後かもしれないから言っておくぞ」
「最後? 嘘だろ、スウスウ」
スウスウは俺の目をしっかりと見て、それから言う。
「私は、お前が好きだった。学者ではなく錬金術師の道を選んだのも、この工房を作ったのも、全て、いつかお前の役に立てればと思ったからだ。その時が来た。上手く使ってくれ。後は頼んだぞ」
その言葉を最後に、糸が切れたかのようにスウスウは眠りに落ちた。
そして。その日からスウスウは眠り続けて、目を覚まさなかった。
質の悪い冗談だと笑おうとしたが、笑えない。
研究室の机から手紙が見つかり、中毒症状を発症し意識を失った者がそのまま眠り続けてしまう事。それから、その中毒症状の初期段階に自分がある事が綴られていた。
毒の成分がどうしてもわからないらしく、治療法はスウスウでも見当がつかないらしい。
それから『工房はラウイッドに全面協力する事』と遺言の様に書いてあり、俺はスウスウの工房からほぼ無制限にアイテムの供給を受けられることとなった。
スウスウは目覚めない。
事前に意識が無くても延命だけは出来ると言う寝台を用意していたらしく、そこで眠り続けている。
だが、落ち込んでいる事は俺には出来ない。
ジェリミムがフンと鼻息高く、沈んでいる俺に言うのだ。
「
飲み込めたどころの話ではない。
「ああ。理解したよ。深刻だ」
世界の危機だし、俺はスウスウを失った。
「なあ、ジェリミム。神託って、魔王を倒せば良いのか?」
「そうよ」
「無理だよ。俺は、ただの冒険者なんだ」
絶望していた。
実力的に、出来るはずがない。
だが、ジェリミムはフンと鼻で笑った。
「何言ってんのよ。戦いの準備は出来てるんだから」
ジェリミムは悪戯な表情で、言い連ねる。
「そもそもこの事態は他の神の仕業よ。いえ、神託を悪用している馬鹿の仕業と言っても良いわ。南方にいる毒の神『ベネドゥ』の信託を受けた奴が、授けられた『神聖なる毒草』を進化させて悪用しているんだから。それに対抗するなら、我の神獣スライムしかないじゃない」
肩の神獣スライムは柔らかく震えている。
「でも、こいつはスライムじゃないか。何が出来るって言うんだよ」
「スライムだから出来るのよ」
「だから、どうやって!」
俺の剣幕に、ジェリミムは優しげな声で答えた。
「毒草と生存競争させるのよ。スライムはね、土地や場所に適応し、自然へと
ジェリミムは、フフンと笑みを見せると、高らかに宣言した。
「
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