第3話 ついに迫り来る世界の危機の事。

 それから、神獣スライムと共に様々な依頼をこなした。


 害獣駆除。警らが対応してくれないような訳あり商店の護衛。必要とあれば猫も探した。

 がむしゃらに人を助けては、ジェリミム神の加護を受けている神獣スライムを宣伝し、神の存在を知らしめて回ったのだ。


 ジェリミム神が世界を滅ぼす邪悪な計画を立てている可能性は確かにある。

 だがしかし。だんだんと強くなっていく神獣スライムを見て、ちょっと楽しくなっていたのも事実だ。

 結果。ジェリミム神自身も見た目が成長していた。

 今はもう、幼女ではない。


しもべ、ラウイッドよ! われにお菓子を供えるのだ!」

「はいはい」


 棚から饅頭を取り、渡すと黄色い声を上げるジェリミム神。


「うひゃー! お饅頭だ! 苦しゅうないぞ!」


 そう、神は、人間ならば10歳くらいに見える小娘へと、その姿を変えていたのだ。

 モクモクと饅頭を頬張る小娘。ジェリミム神。


「ゼリーとかグミがあるともっと良いのだがなぁ? 我がしもべ?」

「でも、お金に余裕が」

「良いから買って来るのだ!」


 お菓子は高価だ。

 スウスウに言えば格安で譲ってくれ……るかと思ったけど、スウスウの工房ではお菓子は作っていないらしい。

 なので、必然的に菓子店で割引なしの品物を買わなければならない。

 実を言うと、お菓子のせいで食うのにも困り始めている。

 それなのにジェリミム神は、俺の懐事情など、まるで気にしてくれない。


「お菓子! もっとお菓子くれ!」


 そんなわけで、高額の報酬を求めた俺は、ちょっと大掛かりな依頼にも参加するようにした。

 大型害獣の駆除だとか、ダンジョン探索チームの護衛などだ。

 他の冒険者仲間と組むような依頼で、報酬も良い。

 実を言うと、神託を受けてからはスライムなんかを肩に乗せ出した変な奴扱いをされていたため、組んでくれる奴がいなかったのだ。

 名前が売れるにつれ、一緒に仕事をしてくれる人が増え始めたのは実に喜ばしい。

 また、時には一緒に悪だくみをしようと、組合ギルドを通さずに声をかけてくる奴も出始めた。


 とは言え、悪い誘いには乗らない。

 報酬額的にかなり迷ったが、神獣スライムが邪悪に育ったら、それこそ世界の危機が始まるかもしれないのだ。


 だが、世界の危機は、神獣スライムとは別の所にあった。

 着実にその魔の手は世界中に伸びており、俺が暮らしている町にも、じわじわと迫っていたのである。


――


「ちょっとしもべ。今日のお菓子はまだなの? 今日はケーキが良いわ」

「ごめん。最近、依頼が少なくて、買えてない」

「はぁ? バカなの? われがお菓子を食べないと世界が滅ぶかもしれないのよ!」

「そんな馬鹿な」


 もちろん、これは俺がお菓子を用意できなかった時に炸裂する、ジェリミムの冗談である。

 彼女から信託を受けてから数カ月。今や俺の知名度は町の者なら誰もが知る者となった。

 もちろん、スライム神ジェリミムの存在も知れ渡り、スライムを拝むものまで現れている。

 その甲斐あってか、神獣スライムは力もスピードも速くなり、傷を癒して怪我を治すような特殊能力も身に着けた。

 そしてジェリミム神も、もはや小娘ではない。

 人間で言う、思春期の少女へとその姿を変えていた。

 そのうちしもべの下着を一緒に洗濯しないでよ! 何てことも言い出すかもしれない。

 年頃の娘を持つ男と言うのはこういう気分になるのだろうな。

 と、そんな馬鹿な事を考えているのは俺だけの様で、ジェリミムは深刻な顔をすると「そろそろ良い頃合いかもね。我も力が少しだけ戻ったし」と、言った。


 そして、全身を緩く発光させると、久しく忘れらていた雰囲気で俺に言ったのだ。


「我がしもべ、ラウイッド・スウジャ! 世界の危機だ! 新しい神託を伝える時が来たぞ! ついに、この町にもその魔の手が迫ったのだ!」


 急に大げさな、と思う。

 で、「町を見て来い」と言うので、町を調べながら歩くと、様子が確かにおかしい。

 道を歩く人々にも活気がなく、そればかりか治安を守る警らでさえも、ボーっとしている。

 冒険者組合ギルドも、常駐待機している人数があまりにも少ない。

 依頼で出払っているのかと思えば、そもそも依頼の数も少ないようなので、その可能性も無さそうだ。

 と、冒険者仲間が声をかけて来た。


「あ、ラウイッドさんじゃぁないですかぁ」


 名前は忘れたが、弓使いの冒険者だ。

 こいつもちょっといつもと違う。目がトロトロで呂律も怪しい。

 いつもは、茶目っ気たっぷりで悪戯好きの、ハキハキした女だったはずだ。


「ラウイッドさんも一本ヤりますぅ? これぇすっごく気持ち良いよぉ?」


 その手には、いつかスウスウの工房で見たオシャレな小瓶が握られていた。

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