第2話 幼馴染の錬金術師と神獣スライムの進化実験をした事。

 天才錬金術師、スウスウ。

 彼女の工房はそこで働く人でいっぱいだった。

 何しろ、この町で流通している特殊なアイテムのほとんどがここで作られているのだ。


 と、受付の人にスウスウの実験室に案内される道すがら、何やらオシャレな小瓶を調べている人達が目に留まる。


「何あれ? 新商品?」

「いえ、南方から流れて来た今流行りの嗜好品です。薬品らしいのですが、正体が分からないのでスウスウ様が解析をするようにと」


 まぁ、そんなのはどうでも良いか。

 そのまま研究室に通された俺はスウスウに会うなり事のあらましを説明した。

 ジェリミム神に与えられた神託の話、そして俺の肩の上にいる神獣スライムの事。

 そして、スウスウは俺の話をすぐに信じてくれた。


「なるほど。理解したぞ、ラウイッド。スライムに食わせるアイテムの相談に来たのだな?」

「流石スウスウ」


 話が早い。

 一を聞いて十を理解する女。それがスウスウだ。


「しかし、俺は今でも信じられないよ。スウスウは神様が本当にいるなんて知ってた?」

「馬鹿かお前は。草の葉一枚にさえ神は宿っているんだぞ? 神話の話も私が教えた話だ。私が知らなくてどうする」


 そうだった。


「お前に聞かせた物の中には、王しか知らないような物語もあると言うのに」

「ぐええ、ごめんよ、スウスウ」


 スウスウは「まぁ、良い」と言い、神獣スライムをジッと見つめた。


「特殊なアイテムを食わせる事で変化すると言ったな。じゃあ、試しに、この蓄電石を食わせてみよう。話の通りなら、これで雷を吐くようになるかもしれん」


 蓄電石。雷の力を秘めた手投げ武器である。

 中心にあるボタンを押して数秒。小さな雷がほとばしり、投げ込んだ場所にいる敵にダメージを与えると言う、使い捨ての電撃武器だ。


「でも、そんなに上手く行くか? 信者が増えないと奇跡は起きないって聞いたけど」

「それなら一人増えた。私だ。ジェリミムの存在を私は確信した」


 一人増えただけでとも思ったし、そもそも石なんて食わせて大丈夫かとも思ったが、肩に乗っている神獣スライムは僅かに嫌がるそぶりを見せた物の、スウスウの手から石を体に取り込み、すんなり食べた。


「食ったな。じゃあ、やれ、ラウイッド。奇跡を起こせ」

「そうは言っても、奇跡ってどうすりゃ起きるんだ? まぁ、何でも良いか。神様! ジェリミム様! どうか奇跡を! ハアッ!」


 手を組み、気合を入れる俺。そして……


「ぐわああ! ビリッと来たあ!」


 神獣スライムが小さな雷を発して、俺は痺れた。


「うおお! 見ろ、ラウイッド! このスライム。自分で雷を起こしているぞ! こんなの、見たことない!」


 派手に喜ぶ女、スウスウ。

 一方、俺はそれどころじゃない。

 神獣スライムは身ぶるいしながら雷を放ち、俺は痺れたり痺れなかったりしていたのだ。


「ぐわああ! 俺から離れろ、神獣スライム!」


 神獣スライムは俺の叫びの後、スライムにあるまじき超スピードで跳ねた。

 そのまま壁に激突すると俺の肩に跳んで戻ってきたが、今度は触れても痺れない。


「素晴らしい威力だ」


 今度は静かに観測する女。スウスウ。

 激突した壁には円形に凹んだ体当たりの跡がある上に、雷の力がパリパリと音を立てて残っている。


「さて、実証されたな。信者が増える事、そして食わせる事。それで進化か。しかし、これは」


 スウスウは何やら頷くと、言った。


「伝説だが、原初のスライムは恐ろしい怪物だった。巨大でどんな刃物も通じず、火も恐れず、周囲の生命を喰らい尽くす恐ろしい怪物だったと言う。しかし、どう退化したのか、一般的に知られる今のスライムは何の脅威も無い野生生物だ。たまに畑を荒らして駆除されたりもしているが、ほとんど脅威は無い」


 ふむふむ? と、今度は俺が頷いた。


「何が言いたいんだ? スウスウ」

「ジェリミム神の事さ。『深き場所より湧き出たるもの』。今言った通り、伝説ではかの神が生み出した最初のスライムは、世界を破壊して回った怪物の一つだ。ともなれば人に祟りを起こす悪しき神である可能性もある。今のところ、世界の危機とやらの前兆も無い。だとしたら、お前に神託を与え、信徒を増やす目的は何だ? この神獣スライムが神話の怪物になる可能性は?」

「俺が、世界の破滅の手伝いをしている可能性もあるって事か?」


 それは全く考えていなかった。


「とにかく気をつけろよ、ラウイッド。もしもの時は力になる」

「あ、ああ」


 俺は幾分かの恐ろしさを感じ、悩みながら宿に帰った。

 このまま、信託の通りに行動して良いものかと。

 が、帰ったら、ジェリミム神は俺の寝台でお昼寝をしていた。

 どこからどう見ても、実に幼女だった。


「邪悪な神には見えないけどなぁ」


 起こして問いただす事も考えたが、よこしまな計画があったとしても素直に吐くとは思えないし、あんまり意味が無い気がする。

 それに、神託通り本当に世界の危機が迫っていた場合、疑って何もしないのも大変なことになる気がしていた。

 とりあえず、ジェリミム教を少しずつ復活させて、様子を見よう。

 俺は眠り続ける幼女に寝台のシーツをかけてやると、神獣スライムと共に冒険者組合ギルドへと向かった。

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