第5話・リュアルの手先、月の男と長靴をはいた男

 竹林の中にある庵室あんしつ──竹林を渡ってくる風が、笹の枝葉を揺らし笹の葉が触れ合う音が聞こえてくる。

 鹿威しの水音が響く茶室で、黒髪を腰まで伸ばした和装の若者が抹茶をたてていた。

 インテリ眼鏡イケメンの『月ノ夜カグヤ』は、たてたお茶を自分で飲んで呟く。

「苦っ、それでリュアルの方からは、今回は誰をしびれ薬の矢で痺れさせて欲しいと?」


 畳の上にブーツで立っている、飾り羽根とネコ耳が付いた帽子をかぶった、三銃士のような格好の、十七~八歳前後のネコ系美少年。

 長靴をはいた美少年『プスプス』が言った。


「リュアルを倒す仲間を集めている、豪拳モモ太郎や中ガラガラドンの連中だ……痺れさせて動けなくなったところを、リュアルが本来の姿にもどす計画らしい」

「ふ~ん、まぁわたしは、報酬さえもらえればいいんですが……リュアルは、わたしやプスも本来の姿とストーリー物語に、もどすつもりでしょうけれど……それまでは、稼ぎさせてもらいましょうか」


 抹茶を飲んだ口元を、懐紙で拭ってからカグヤが言った。

「リュアルが約束した通りに、妹分の『織姫』には手を出さない限りは、わたしは報酬のために動く」

 プスプスが、腰のレイピア剣を鞘から引き抜いて、天井に向けて刃先を向ける。

「一人は、おかねのために……みんなも、お金のために」

 剣が茶室の天井に刺さる。

「ニャ、天井に刺さって抜けなくなった」

 立ち上がったカグヤは、プスプスと協力して天井に刺さった剣を一緒に引き抜いて言った。

「トラップを仕掛けるなら、この竹林に誘い込まなければ……おそらく、連中は竹林から少し離れた洋風の町に、立ち寄るはずですから」


「町にいる幼女姿の織姫は大丈夫なのか? 町の酒場で働いているんだろう? リュアルに狙われるってコトは」

「そこは、抜かりがない……協力な助っ人を二人ばかり、金銭を渡して織姫を近くて守ってもらっていますから」



 竹林から少し離れた洋風の町──町の酒場に昼間から、二人の成人女性が酒をあおりながら。

 リュアルに対する、不平不満をもらしていた。

「冗談じゃないわよ、何が本来の姿よリュアルのヤツ! 時間を少しだけ操れる、あたしのイケメンウサギを、時計を持っただけの服を着たウサギに変えやがって!」


 腰のベルトに、薬ビンや薬草が入った革の小箱を付けた『不思議の国のアリス〔成人女性〕』が、ドンッとテーブルの上に空になった木製カップを置いた。

 アリスの向かい側に座っている、酔っ払い成人女性もドンッと空になったカップを置いて言った。

「あたしの方もそうよ、イケメン男性だった……案山子かかし、ライオン、ブリキの木こり、子犬のトトまで、あんな姿に変えやがって!」


 そう言って『オズの魔法使いのドロシー〔成人女性〕』は、骨付き肉をかじりながら、酒場の厨房に向かって「お酒おかわり、二人分」と言った。

 厨房から幼女が一人、必死にお酒が注がれた木製カップをトレイに乗せて運んできて、アリスとドロシーのテーブルに置いて言った。

「飲み過ぎないでくだちゃいね」

 あどけない、織姫の言動にキュンと癒やされるアリスとドロシー。

「きゅわいぃ♪ こりゃ、カグヤが妹コンになるワケだ」

「この町にいる限りは、あたいらが守ってやるからな」

 幼女の織姫は空の木製カップを、木製トレイに回収すると。

「それは、どうも」と言って厨房にもどって行った。


 織姫の姿が見えなくなると、アリスが小声でドロシーに囁く。

「知っている? 最近リュアルの動きが活発になってきたみたいだぞ」

「知っている、隣町にもリュアルが現れて童話や昔話の登場人物が被害にあっている……普通の人間サイズの親指姫がミニサイズの姫に変えられたり、ハーメルンの笛吹き男は、リュアルに襲われたけれど逃げのびた」


 アリスは、試験管の中に入った飲み薬を飲んで、巨人化するコトができた。

 ドロシーは、履いている靴を鳴らして黄色いレンガの道を空中に作り出して、竜巻を起こすコトができる。


 その時、酒場にモモ太郎とガラガラドンの一行が現れて、アリスとドロシーに質問してきた。

「この辺りに住んでいる、長髪の月の男を知らないか?」

「長靴をはいた男を知らないか? 高速の突きに特化しているらしい」

 顔を見合わせるアリスとドロシー。

「その二人なら、竹林にいつも居るよ。名前は『月ノ夜カグヤ』と長靴をはいたネコ『プスプス』……あの二人になんの用?」


 中ガラガラドンが、言った。

「リュアルと戦う仲間として迎え入れたい」

「また、面倒なコトを……あんたたち、あの二人には近づかない方がいいよ……あの二人は、リュアルの」

 モモ太郎が、手の平に拳を打ちつけて言った。

「リュアルの手下だって言うんだろう、ますます直接会って拳で語りたくなった」

 ドロシーが、履いている靴を踏み鳴らすと、黄色いレンガの床が広がる。

「あんたたち、変わっているね……でも、そんなのも嫌いじゃない。あたいらも、リュアルと戦うなら協力させてよ、戦力にはなるよ」

「それは、ありがたい仲間は多い方がいいからな……他に強そうなヤツを知っていたら、教えてくれないか?」

 アリスとドロシーが言った。

「隣接したガラス城と、いばら城に住む王子は強いよ……仲間になってくれるかは、わからないけれど」

「ガラス城の灰かぶり王子は『シンディ・レラ』ガラスの武器を作り出す」

「いばら城の眠りの王子は『眠兎みんと』睡眠拳の使い手」

「わかった、訪ねてみる」

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