第4話・黒い森のオオカミさんとマッチ売りの赤ずきん

 黒い森近くの村で、少年が大声で走り回っていた。

「大神サンダー! 大神サンダー(オオカミさんだ!)が来たぞ!」

 黒い森に住む乱暴者でイケメンの『大神サンダー』が、村に来たコトを知らせるウソつき少年。


 最初は、大神サンダーが来たと騒げば。村人たちが慌てて家の戸締まりをする様子が面白くて、サンダーが来たとウソをついていた少年も、今では村人は少年の言葉を信じなくなり。

 知らん顔をして、日常を送るようになった。

「大神サンダーが! ちえっ、誰も驚かなくなった……つまんないな」

 路地道を退屈そうに歩いている少年に声をかけてきた人物がいた。


「ぼうや、大神おおがみサンダーはどこにいるの?」

 はち切れんばかりの豊満な胸をした、女性がレンガ壁に背もたれた格好で少年を見ていた。

「ウソだよ、大神サンダーなんて、どこにもあないよ」

「な~んだ、ウソなの……一度、大神サンダーを見てみたかったんだけれど、大神サンダーってどんな姿をしているかしら?」

「えーと、野性味の精悍なイケメン男性で頭とお尻にオオカミの耳と尻尾が付いていて……そうだ、片手か両手に、その時々で鋭いカギ爪のグロブをしている」


 女性の目に野生の輝きが満ちる。

「もしかして、大神サンダーって、こーんな姿をしているんじゃないかしら」

 変装していた女性の姿を剥ぐように、片方の手に鋭いカギ爪のウルフクローグラブを装着した『大神サンダー』が現れた。

 悲鳴を発するウソつき少年。

「ひっ!」

「逃げるんじゃねぇ!」

 大神の鋭いウルフクローが、少年が背中を付けたレンガの壁に、電撃の火花を散らして突き刺さる。


 少年に凄む大神サンダー。

「オレに関する知っているコトを言ってみろ」

「三人のイケメン兄弟が作った、ワラの家、木の家、レンガの家を息で吹き飛ばそうとして。酸欠状態になったり」

「他には?」

「七人のヤギ兄弟姉妹の家に入ろうとして……小麦粉で手と顔を真っ白にして大笑いされたり……それから、えーと乱暴者で村人から嫌われていたり」

「もういい! 失せろ!」


 慌てて逃げていくウツつき少年を見ながら、大神はタメ息を漏らした。

「村に買い物に来ただけで、この扱いか……勝手に変な噂が広がってやがる……三人のイケメン兄弟を、子ブタに変えたリュアルを見つけ出して、ブッ飛ばして兄弟を元のイケメン姿にもどしてやらねぇとな」


 路地道から、大通りに出て歩いていた大神に向かって、横から先端が炎の鳥の形をした炎が放射された。

 炎をかわした、大神が炎が飛んできた方向に向かって言った。

「火の鳥を飛ばすのが、おまえの挨拶か!」


 そこには、赤い頭巾をかぶり、片方の目を髪で隠した成人女性が立っていた。

 女性は巨大なマッチ棒を背負い、腰のベルトにも三十センチほどのマッチ棒が数本ささっている。

 肩には本物のスズメが一羽とまっていた。


 大神が言った。

「この放火魔が……マッチ売りの赤ずきん『火鳥燐子ひとりりんこ』」

 燐子が、擦って燃えてもなくならない魔法の永遠マッチ棒で火を作り、

空に向かって息で炎の花火を打ち上げて言った。

「あたしの炎は魔法の炎……マッチいりませんか」

「いらねぇよ、本家の赤ずきんは、まだ体調不良で寝込んでいるのか?」

「森で熊の姿をしたリュアルと、出会ってしまったショックで寝込んでいるよ……赤い頭巾は、あたしが譲り受けた」


「まさか、熊の姿をしたリュアルがいたなんてな……森に入る時は、熊避けのベルが必要だな」

「子供の姿にされた、赤ずきん……子ブタにされたイケメン兄弟、次にリュアルが森で狙うとすれば……」

「七人の兄弟姉妹だ! やべぇ、あの家は母親が、留守で子供だけだ」

 大神と燐子は、急いで頭にヤギの角を生やした七人の子供たちの家へと向かった。


 七人のヤギっ子たちは家の中で、かくれんぼをして遊んでいた。

 なかなか、見つからなかった末っ子が大きな柱時計の中から、クモの巣だらけで出てきたのを見て兄弟姉妹たちは、笑い転げる。

「あはははっ、なんだよ、おまえクモの巣だらけじゃないか。あはははっ」

「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも笑い過ぎだよ」


 その時──ドアをノックする音が聞こえ、野太い男性の声が聞こえてきた。

「お母さんだよ、ドアを開けておくれ」

 ドアの節穴から外を覗いた、一番上の兄が言った。

「おまえは、お母さんじゃない! お母さんは、そんな髭剃り青アゴじゃない!」

「ちっ、バレたか……ドアを開けろガキども、本来の姿にもどしてやる!」

 山羊家のドアをドンドンと叩いている、黒い服の男に背後から大神サンダーが声をかける。

「おいっ、リュアル。山羊家の子供たちには、指一本触れさせねぇぞ」

 振り返ったリュアルの目に、並んで立つ大神と燐子の姿が映る。


 逃げ出した、リュアルの男を追う大神サンダー。

「逃がすか!」

 イナズマのようなスピードで疾走して、ウルフクローで斬り仕留めた男に向かって、燐子の吐きつける炎が男の全身を包む。

 燃え尽きたリュアルは、黒い残骸になって消えた。

「リュアルは、油断も隙もあったもんじゃねぇ」


 リュアルを始末した大神サンダーと火鳥燐子を、やっと見つけた中ガラガラドンが話しかけてきた。

「親戚の山羊家の子供たちを守ってくれて、ありがとう……一緒にリュアルと戦ってくれないか」

「こちらの方から、望むところだ。リュアルを倒すチームの仲間をオレと燐子も探していた」

 燐子の肩にとまっているスズメも、どこからか和バサミを取り出して両目を、やる気に光らせる。


 大神は「赤ずきんを子供に変えた、リュアルの熊と。イケメン兄弟を子ブタに変えたリュアルを探し出して倒してから後を追う」

 と言って、最後に一言つけ加えた。

「竹林に住む月の男と、長靴をはいた男には気をつけろ……リュアルの手先という噂だ」

「わかった、月の男と長靴をはいた男だな」


 こうして、大神サンダーと、火鳥燐子が仲間になった。

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