第3話・海の人魚王子と陸の海賊王女

 小さな無人島がある沖に、一隻の海賊船がいかりを海底に下ろして停船していた。

 海賊船の甲板には、片方の腕が?型をした義手の王女で、海賊をやっている隻眼の『フック王女』が、海面を睨みつけている。

 フック王女が睨みつけている視線の先には、海上に鎖骨より上を出して浮かぶ人魚の、清涼系イケメン王子『エリアル』が、三ツ又の銛トライデントを持って。

 甲板で船縁に片足を乗せた、フック王女を睨みつけていた。

 海賊の王女が抜いた海賊剣の切っ先を、海の王子に向けて言った。

「海から甲板に……陸に上がってこい、陸では尾ビレが二本の足に変わるんだろう」


 人魚王子も負けじと言い返す。

「そっちこそ、海に入ってこい……海が怖いのか」

 エリアルの周囲に海の生き物が、次々と浮かび上がってきた。

「上がってこい」

「下りてこい」

 二人は、ずっとこの調子で船の上と海でケンカを続けていた。


 海賊の王女と人魚の王子の言い争いを、無人島の砂浜に上陸した海ガメのメカから降りた、モモ太郎とガラガラドンの一行は眺めていた。

 温羅が呟く。

「島まで聞こえてくるね……あの二人の言い争う声」

 モモ太郎が呆れ顔で言った。

「お互いに意地を張り合っているのさ、本当は仲がいいはずなのに」

 中ガラガラドンが、モモ太郎に訊ねる。

「どうするつもりだ」

「どうもしないさ……下手に二人の間に割って入ったらケガするぞ。なにしろ、あの二人はかなり強い──少し様子見だ、それに」


 モモ太郎は、フック王女の海賊船を凝視する。

「あの海賊船に、リュアルが数名潜んでやがる……迂闊うかつには近づけねぇ……鬼ヶ島に微かに漂っていた、リュアルの残り香と よく似た匂いが潮風に混じって流れてきやがる……リュアルが、なんらかの行動を起こしたら船に乗り込む」


 その夜──停船している海賊船の船長室で、フック王女は袋から取り出した金貨を、机の上に積み上げて数えていた。

 ロウソクの明かりの中、金貨が輝きを放つ。

(まったく、人魚の王子は強情だ。素直に折れれば済むことなのに)


 その時──船長室のドアをノックしてから一人の海賊船員が入室してきた。

「キャプテン、少しお話しが」

「なんだ、後にしろ……今、分配する金貨を数えている」

「すぐに終わりますから……フック王女を、本来の姿に戻してあげます……本来の海賊フックの姿に」

「なに!? おまえ、まさかリュアル!」

 部下の衣服が黒い服に変わる。フック王女が剣の柄に手を掛けて鞘から剣を引き抜く前に、王女は体の変調を覚えた。

「ぐっ……これは?」

 体にまとわり付いてくる、黒い粘液のような霧……リュアルの童話キャラを本来の姿に戻す作業。


 リュアルの部下が言った。

「どうですか? 本来の姿にもどるのは気持ちがいいでしょう……フック船長のストーリー物語に、人魚は登場しますが、人魚姫にフック船長は登場しない。そもそも、フック船長は、王女でなければ女でもない……おっさんです、元の物語に帰れ紛い物の童話キャラ」


 おっさんフック船長に戻りつつある、フック王女──その時、扉を蹴り開けて二本足に変わった、人魚王子がリュアルに向かって三ツ又銛トライデントの切っ先を突き出す。

 海水を迸らせた銛が、リュアルの体を貫き、リュアルが消滅するのと同時に、海賊王女の体は元の女性の体にもどる。


 座り込んで呼吸を整えているフック王女を抱き締めて、エリアル王子が囁く。

「大丈夫か……変なコトされなかったか?」

 見詰め合う、海の王子と陸の王女、王女が静かに目を閉じると。

 王子も静かに目を閉じて唇を接近させる、その時──開いたドアの方から咳払いをするモモ太郎の声が聞こえた。

「お取り込み中悪いが、船内に潜んでいたリュアルは全部、消滅させた」

 顔を赤らめて、互いから離れるエリアルとフック。

 中ガラガラドンが言った。

「オレたちはリュアルを倒すために一緒に戦う仲間を集めている……二人の力を貸してくれ」


 人魚王子が言った。

「リュアルのやっているコトは許されない、童話国のために協力しよう……オレの銛は、海の力を宿し。海洋の生物たちも協力してくれる」


 海賊の王女が言った。

「わたしも本来の姿に強制的にもどされる、あの恐怖を初めて体験してわかった。変貌していく肉体と、消えていく記憶の苦しさ。

リュアルを倒す仲間になろう、わたしの海賊剣は曇天を十字に切り裂く」


 エリアル王子とフック王女が仲間になった、エリアルとフックは後から追いつくから。仲間集めを続けてくれと言ってから。

 味方になってくれそうな人物の名をあげる。


 フック王女が言った。

「黒い森に住む『大神』という者を訪ねてみればいい……説得するのは、少し難しいかも知れないが仲間になってくれるかも知れない」


 中ガラガラドンが言った。

「大神……オオカミか、わかった黒い森に行ってみる」

 一行は黒い森に向かった。

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