第2話・鬼ヶ島の温羅童子と、モモ太郎

 モモ太郎たちは、鬼ヶ島に上陸した。

 殺伐とした荒れた港の様子に、唇を噛み締めるモモ太郎。

「漁をする小舟が破壊されている。前に訪れた時はこんなんじゃなかった、建物も破壊されている。いったい何が?」

 その時──モモ太郎一行を物陰から、うかがっている者たちの存在があった。

 家来のイヌ、サル、キジが気配に気づいて騒ぐ。中ガラガラドンと小ガラガラドンも戦斧を握り締めて構える。

「どうした? 物陰に何かいるのか?」

 物陰から絵本に出てくるような凶悪な容姿の、赤鬼や青鬼が武器を振り上げて、モモ太郎たちに向かって襲ってきた。

 驚くモモ太郎。

「マジな鬼だ!? どうして、そんな姿に……リュアルに変えられたのか?」


 鬼ヶ島の鬼たちは、本来は美男美女の温和な容姿と性質をしていて、人間に角が生えた程度の姿をしていた。

 モモ太郎が襲ってきた鬼に、頭突きをして応戦しながらガラガラドンに言った。

「こいつらを殺さないでくれ、リュアルに姿を変えられているだけなんだ」

「わかった」

 ガラガラドンは、腰の剣帯に差している。泉の女神からもらった、鉄・金・銀・銅の戦斧のうち。

 相手を傷つけないで気絶させるだけの、銅の戦斧を使って戦う。


 家来のイヌ、サル、キジが一体の倒れた鬼の上に乗って、喉笛を噛みつき、眼球を抉ろうとしていたのに気づいたモモ太郎は、慌てて拳で家来を吹っ飛ばして鬼から離す。

 やがて、モモ太郎たちは、恐ろしい鬼に取り囲まれた。

「ここまでか」

 モモ太郎がそう思った次の瞬間──金棒を振り回して飛び込んできた、鬼の少年がリュアルに姿を変えられた鬼たちを、モモ太郎たちから蹴散らし離す。

「モモお兄ちゃん。早く逃げて!」

 鬼ヶ島の大将、二本角の可愛い系のイケメン少年『温羅童子』が、モモ太郎たちを近くの小屋に案内して。

 扉にかんぬきを掛けて、恐ろしい鬼や鬼女の侵入を防ぐ。

 温羅が小屋の、床にあった扉を引き上げると隠し通路が出現する。

「ここから逃げて、浜に繋がっているから。ボクが食い止めるから」


 通路の階段を少し降りたモモ太郎が、温羅に向かって手を差し出す。

「温羅、おまえも一緒に来い……おまえ、犠牲になってオレたちを逃がすつもりか……一緒に来てリュアルと戦ってくれ、おまえの力が必要なんだ」

 首を横に振る温羅を、モモ太郎はもう一度説得する。

「仲間をあんな姿に変えたリュアルの探し出して倒せば、鬼ヶ島の仲間は元の姿にもどる……おまえが、仲間を変えたリュアルの顔を知っているなら、この手を握れ」

 一瞬、躊躇ちゅうちょした温羅だったが、モモ太郎の大きな手を握り締めて穴の中に飛び込んだ。


 数分後──モモ太郎たち一行は、メカ海ガメの中にいた。

 自動操縦されている、海ガメの中で温羅は物珍しそうに、内部を見回していた。

「ボク、こんなの初めて見ました……すごいです」

 前方モニターに、金の王女の姿が映る。

《モモ太郎さん、温羅童子さん、一緒に戦ってください……わたくしは、リュアルと戦う兵力でトランプの兵隊と、鉛の兵隊に声を掛けています……リュアルについて新たにわかったコトがあります》

 金の王女は続けて話し続けた。

《どうやら、リュアルの正体は、三次元人の思念らしいです》

 中ガラガラドンが訊ねる。

「三次元人の思念?」

《リュアルの世界では、ウラシマタロウのカメは、普通サイズの普通の海ガメらしいです。機械のカメなどありえないと……リュアルたちに言わせると、童話国は歪んだストーリーの過ち世界だと》

「過ちだろうとなんだろうと、これがオレたちにとっては本当の世界だ……勝手に変えるな」


 モモ太郎が言った。

「リュアルと戦うなら、力になりそうなヤツを二人ばかり知っているぜ……ケンカばかりしているヤツらだがな、海域を教えるから会ってみるか」


 一行は、モモ太郎が指定した海域にカメで向かった。

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