フェンス越しの田村さん

僕の母は一週間前に他界した。事故とも知れない転落事故で。喪失感は果てしなかった。僕は彼女を心身ともに愛していたのだから――。

夏休みの補習が終わった午後、思い切り日差しを浴びるために向かった屋上に、彼女はいた。田村敦子。五月から有名になったこの高校の奇人。いつもこうして屋上のフェンスを越えては下を眺めている。教師も生徒も慣れっこになって、誰もそれを止める人間はいなかった。

が、ある日そんな彼女がウチのマンションを弔問に訪れた。
それ以来、ケチャップまみれの豆腐炒めを「麻婆豆腐」と言い切る彼女との不思議な交流が始まった。
高校三年生から始まる、彼女とのシュールな日常。