第24話 烟る日常、飛び立て乙女⑥

「わかりました。それと出張の期間はどれくらいなんでしょう」

「明日にはもう出発したまえ。とにかくオーパーツが売っぱらわれたりしたら最悪だからな。早く任務が終わるに越したことはないが。そうだな、当面1ヶ月を区切りにあっちで生活してもらおう」


 ひとまず1ヶ月ね、了解。その間に絶対に尋成を見つけてオーパーツと金を取り戻しちゃる! ついでに田中さんの記憶も元に戻させて、これまたついでにぼこってやるわ。


 そうと決まればこんな職場に長居は無用。


「もう帰宅していいですか? 色々と準備もあるので」

「ああ。みんなには私から適当に説明しておこう。それと、必ず1日の終わりには業務報告をするように。わかったか?」


 はいはい進捗確認ですね、わかりましたよーだ。


◆◆◆


(なんかすごい歪んだ精神の持ち主だったね)


 支所を出、車で自宅に帰っている最中、元の姿に戻ったスラチンが口を開いた。あんたもエロが絡むと相応に精神が歪み出すんだけど……、もしや無自覚?


 こういう輩、ほんと迷惑だし鼻につくのよね。周りを気にせず自分勝手に振る舞うなんて、なんだかんだ人生勝組なのよね。


「ヘリヤさんがわざわざあの人の話に乗ってあげる必要なんて、全くないですよ」


 エイルも納得いかない様子で頬をぷくぷくさせて怒ってる。


「いいのよ。むしろ願ったり叶ったり。私ね、尋成ひろなりを追い詰めて金返させるって決めたの。だから支所の金で生活費なんて気にせずに尋成探しができるって、私的にかなり好条件なわけ。まあ、確かにあのちょび髭にはムカっ腹立つけど」


「そ、そうなんですね」エイルは唖然としつつも、「でもお金を取り戻そうと危険を冒すのは、ちょっとどうだろ。心配です」と、至極真っ当な主張をしてきた。


「私ね、許せないの。自分の都合で他人の大切な記憶を盗むなんてあり得ない。エイルの話を聞いてそう思ったし、さっき田中さんが記憶を奪われてるとこを見て、すごいショックだったわ。尋成を野放しにはできない。お金とオーパーツはそのついでよ」


 エイルを泣かせたあいつを許すなんてナンセンスにもほどがあるわ。……安定を至高のものとするただの事務員にしては息巻きすぎかしら? でも尋成に対するこの嫌悪感は拭い去れないし、許せないって気持ちはどうしようもない。


「……私も一緒に行っていいですか?」


 エイルは遠慮がちに私を見た。ごめんねエイル。すでにあなた、頭数に入ってるわ。


「もちろんよ。帰ったら早速荷造りしましょ」

(僕も?)

「そりゃそーよ。あんたありきの九州上陸なんだから。しっかり働いてちょうだいね」

(いや、そうじゃなくて。僕もヘリヤたちと同じ屋根の下で過ごせるのかな、と思って)


 すでによからぬ妄想をしているようで、スラチンはスケベ面を晒していた。しまったな、こいつの人格矯正を行わないと安心して寝られたもんじゃない。


 外に蹴り出しておいても、ダンジョン外で魔物と一緒にいることがご近所にバレるリスクがあるし……。


「あんた、私たちに何かしたらタダじゃおかないからね」


 仕方なくそう凄んで見せたけど、(やったー! 楽しみだなー。この世界で生活するなんて初めてだし。しかも素敵な女の子2人に囲まれてだなんて。うひゃひゃひゃひゃひゃ)すでに手に負えない雰囲気を醸し出している。


「ヘリヤさん、私がいるから大丈夫です」


 スラチンの様子に正しく何かを察したようで、金玉を素手で握り潰した女、エイル・ミストスが力強く頷いた。その様子に突然黙り込むスラチン。


 はい、頼りにしています。私はエイルに最敬礼を送るのだった。

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