ひとりきりだけど一人じゃないから、また歩き出せるんだ

もの悲しい話である。
それでいて、よく考えられて作られている。 
どきり、びっくり、うらぎりがあり、上手い。

白血病だと面会は大変で、身内や親戚以外はまず会えない。
弟の見舞いに来たついでに彼女の見舞いに来る椛田に違和感を覚えた。
おそらく、彼は嘘をついているのだろうとは感づいていた。

彼が病院にすでにいるから「住んじゃうか?」という発想が普通に出たのだろう。
二人にしてみたら、このときが一番楽しい時間だったと思う。

冒頭に「天が、さめざめと泣いている。涙の雫はまるで祈りを捧げるように優しく雨音を奏で、地に降り注ぐ」とある。
この雨は、雨音の涙だろう。
「〝雨音〟を奏でる」という表現は、彼が好きだといった『雨だれ』のことであり、雨が降る中で、雨音の名前の彼女自身がピアノを弾く行為、すべてがかかっているのだ。
冒頭の表現にモヤッとしていたけれども、最後まで読んでスッキリした。

雨はいつかやむ。
また歩き出すために、明日は心が晴れますように。