第22話 日本人が経営するセイロンコーヒー屋

 いつも通り、バスターミナルではないところで降ろされた。ガイドブックを見たら、キャンディシティセンターと言う新しくできたショッピングモールの裏通りだった。

 グーグルマップを起動し、本日の宿までのルートを探す。ここから右へまっすぐ行けば到着すると出る。ルート案内ボタンを押し、音声誘導をしてもらう。歩き始めてすぐ、相当年季の入ったハトのマークの引越センターのトラックが飛び込んできた。 

 こちらに支店があるのか、と過ったが、どうも様子がおかしい。運転手が後ろの扉を開けて仕事をしている。中を覗くと、痛々しいくらいに大量の鶏が押し込められている。虐待されているみたいだ。これは養鶏トラックとして再利用されていたのだ。

 スリランカではたくさんの日本車を見たけれど、どれも結構なお年を召されていた。スリランカへ中古車を輸出している会社さんに声を大にして言いたい。もっとまともな車、送ってあげて欲しい。

 歩くこと5分で本日のゲストハウスに到着した。時間が早いと言うことで、チェックインはできず、荷物だけ預かってもらうことにした。

 早速キャンディの街へ飛び出して、真っ先に向かったのは目を付けていた「ナチュラルコーヒー」というセイロンコーヒー屋である。ここは日本人オーナーが経営している店だ。

 スリランカは紅茶栽培が有名だが、イギリスに統治される前はコーヒー栽培が盛んだった。セイロンコーヒーはダンブッラの宿でも飲んだけど、日本人オーナーのこだわりも感じたいと思い、足を向けた。

 こちらのお店はこの国では相当な高級店のようで、店員は制服を着用し、水とおしぼりまで出てきた。現地人の客なんて、誰もいない。観光客や駐在員のマダムが上品にコーヒーを啜っている。写真付きのメニューを見て、カフェオレをオーダーした。


 うん、飲みやすい。


 苦みもあまりなくまろやか。美味しい。日本人オーナーの店の割には、全く日本語表記はなかった。

 この店はオーナーがフェアトレードに力を入れていて、その手法で栽培されたコーヒー豆を売っている。お土産で購入される方も多いらしい。コーヒー代のほか、税金とサービス料も取られて520ルピー。予想通り、カレーより高かった。

 エアコンもガンガンに効いていて、誠に結構。今までケチっていたのだから、たまには贅沢もいい。

 涼んだ後はキャンディの一番の名所、世界遺産の仏歯寺(ダラダー・マーリガーワ寺院)へ向かう。この施設は「ナチュラルコーヒー」の目の前にある。

 まずはチケット購入する。仏歯寺敷地内の右手側に、この国にしては珍しい、チケット券売機がある。英語表記が出るが、販売機の横に常に警備員がいるので代わりに操作してもらえた。チケット代は1500ルピー。

 仏歯寺の左サイドには、サンダルを預けたりとか荷物を預けたりできる小屋がある。あまりにも行列になっていたので、時間がもったいないと思った私はスルーした。預けて来い!とチケットチェックゲートに立つ警備員に言われたら、しぶしぶ行こうかな、くらいに捉えて、とりあえず余っていたビニール袋にサンダルを入れてリュックに投入し、そのままゲートに向かった。ピクニックに行く程度のサイズのリュックサックは中に持ち込めるようで、何のお咎めもなく普通に入れた。あまりにも大きいバックパッカークラスの鞄を持ち込もうとしていた欧米系の旅行客は、預けて来い!と追い返されていた。

 仏歯寺では、1日に3回プージャ(仏に対する礼拝)の時だけ、歯が納められている部屋の扉が開かれる。その本堂は2階にある。歯が直接見られるのではなく、歯が入れられているとされる容器が見られるだけ。

 それならいいわ、と思って私はその時間を避けた。というのも、扉が開いている時間は、ディズニーランド状態だと言う。せっかく来たのだからゆっくり見学したい。

 チケットを見せて入場すると、プージャの時間帯ではないのにもかかわらず、中には多くの参拝客がいた。まだ1月3日だ。初詣みたいな感覚で仏歯寺に参拝に来ている地元民がいるのかもしれない。仏教徒であるシンハラ人にとって、仏陀の歯を安置している佛歯寺の存在は、何と言っても民族最高の象徴だ。

 スリランカの方々はお寺さんに来るときは大体白い服を着用している。やはり正装なんだろう。子どもたちの学校の制服も白ばかり。さすが仏教徒、きちんとしている。姿勢も良い。

 流れができていて、すぐに仏陀の歯が納められている容器がある、二階の部屋の前に着いた。警備員がしっかり門の前に立っており、厳重に扉を守っている。皆、ちゃんと立ち止まって丁寧に手を合わせていくのだが、どうしても警備員に手を合わせているようにも映る、少し滑稽な光景がそこにはあった。

 建物そのものはキャンディにおいて、一番古いお堂だけあって、重厚感が半端ない。地元の参列者に倣い、部屋をぐるりと一周する。お堂の壁や梁には素晴らしい彫刻や絵があり、しばし見入っていた。

 お堂見学後は中庭に出る。広い敷地内にはココナッツ油に火をともし、祈りを捧げる小さなお堂があり、その横には鐘が設置されている。観光客も混じって鐘を盛んに鳴らしていた。

 中庭の後方部には休憩所あり、地元の人たちは寝転がったりして、火照った体を休めていた。私もここで一休み。水分を取ったりはできるが、いちゃつきは禁止。警備員から注意を受けているカップルがいたのが面白かった。

 仏歯寺の見学順路の最後は、仏歯寺の博物館に突き当たるようになっていて、そこは無料で見学できる。仏歯寺の歴史に触れることができる貴重な展示品も多くあって、なかなか興味深い。

 


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