第15話  見返りのない優しさのある国民

 この施設は似たようなゲートがいくつかあり、全てのゲートを確認するも、自分がどこから入ったのかさっぱり思い出せない。

 スマートフォンで写真を確認する。もしかしたら、ちらっとゲートが映って

いるかもしれない。これはゲート付近かな?と言う写真をチョイスし、その辺にいる人たちに見せて、ここに行きたいのだと伝えるも、全く言葉が通じない。母国語であるシンハラ語やタミル語しか理解できないようで、困惑した顔を向けてくる。困ったのは言葉だけではない。風景だ。正装なんだろうが、皆一様に白装束に身を包んでいるため、どこを見ても同じ景色にしか見えないのだ。

 太陽がゆっくりとモチベーションをあげてくる時間。

 暑さと焦燥で汗が滝のように流れる。軽く精神錯乱を起こしながら、何度も

何度も同じ服を着た参拝客をかき分け、菩提樹を周遊する私。

 どれくらいの時間が経っただろう。

「ジャパニーズ、ジャパニーズ!」

 声のする方向に目を凝らす。なかなか戻って来ない私を心配して、ベテランド

ライバーさんが探しに来てくれたのだ。

 迷子になっていたんだ、と話すと、この人込みだから仕方ないよ、会えてよ

かったと笑顔を返してきてくれた。一緒に中央出口へ向かう。

 ここから入ったのか。ほっとするも、

「君のサンダルはどこだい?」

 ドライバーは私の足を指す。あ、裸足のままだ。トイレ小屋の横で脱いだはず、…と探すもない。

「黄色のサンダルなんだ」

と伝えると、ドライバーは一緒に探してくれた。それだけではない。ドライバーが周囲の人に、こういうサンダルを知らないか?と声をかけてくれている。気づいたら、10名ほどの見ず知らずの参拝客がたった1人の日本人のために、サンダルを探してくれているのだ。この光景には驚いた。

「あれじゃないのか、ジャパニーズ!」

遠くに目をやると、トイレ横の木の下で、ちょっと肩身が狭そうに佇んでいる黄色のサンダルを発見。どうも遠くに追いやられていたらしい。

盗まれていなかったのだ。この事実にも驚いた。

 私はどこかで貧しい国だから、窃盗などの被害にあうだろうとは覚悟していた。しかしながら、スリランカでは何度も靴を脱いだが、一度も盗まれなかった。

 いつ盗まれても良いように、100円ショップに売っている便所サンダルで遺跡見学をしていた私。後に他のゲストハウスで出会った旅人にも話を聞いたが、誰も何も盗まれた被害は言って来なかった。どうもこの国には、そんな手癖の悪い人たちが少ないようだ、と語っていた。

 その点は非常に穏やかで良い国民だと思った。

 振り子人形のようにひたすら頭を下げ、スリー・マハー菩提樹を後にした。

 さて、主要な遺跡をぐるぐる回ってくれ、また主要ではない遺跡までガイドしてくれたベテランドライバーさん。途中でタバコ代100ルピーをおねだりしてきたり等あったが、それは色々助けてくれたこともあったのでチップ代として渡した。とりあえずこちらの要望はちゃんと叶えてくれたので帰りのバスターミナルまで送って、もらってさようならした。

 なかなか営業意欲もある人で、あと500ルピーをくれたら、ここと、ここを案内するよ、とか言ってきていたけど、暑くて面御臭かったので言葉を分からないふりをしてしまった。

 到着したオールドバスターミナルは中心部からちょっと離れた場所に位置している。ここからダンブッラへ戻るバスが出ると言う。

 ちょっと暑すぎたから、近くのレストランでジュースを飲むことにした。

 昨日のトラウマもあり、衛生的に大丈夫??と心配だったが、暑さには勝てない。オールドバスターミナルの前にある、そこそこ小奇麗な喫茶店に吸い込まれるように入店した。カレーなども提供している喫茶店だった。

 ちゃんと英語表記のメニューも用意してある親切な店。きっと観光客も来るのだろう。店員さんの表情の置き方に、外人慣れしている印象を受けた。オーダーしたのはミックスジュース。アイスクリーム入りで、100ルピー。

 グラスまで冷えていて、すんごくうまいの。こんなうまいミックスジュースは生まれて初めてだ。感涙の涙でむせびながら、一気に飲み干した。

 オーダーを取る段階から、女性店員さんが非常に親切だったから、ついでにペットボトルの水も購入した。ここで支払ったのは合計150ルピー。その際、今日は今からどこへ行くのか?と聞かれ、ダンブッラへ戻ろうと思う、と答えたら、

「イスルムニア精舎は行った方がいい。あなたはラッキーな人になれる。」

と勧められた。時刻はまだ13時前だ。せっかくなので、そこだけ行くことにした。

 店の前にたまたま止まっていたトゥクトゥクと交渉。店からイスルムニアまで200ルピーとのこと。

 イスルムニアには、たった5分で到着。太陽は相変らず絶好調である。降り立った途端、汗が待ってました!とばかりに噴き出した。

 

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