第3話

空港からタクシーに乗り、ひとまず海岸に辿り着いた。

ちょうど夕暮れ時で、真っ白のはずの砂浜と静かな海が赤く染まって美しい。

しばらく海辺を探してみたが、朝子の姿はなかった。


当てもなく周辺を散策していると、年季の入った薄黄色の暖簾が掛かった居酒屋を見つけた。

ここは…やっぱり!朝子の写真に写っている店だ!朝子はここに来たんだ!


入口の引戸をガラガラと開けると、中には常連らしい年配客でいっぱいだった。

すぐにカウンターから店主の女将さんが顔を出し、いらっしゃい、と威勢よく迎え入れてくれる。

俺は、カウンターに座ると、ビールだけ頼んで女将さんに尋ねた。


「あの、すみません。この人、昨日あたりにここに来たと思うんですけど、覚えてませんか?」


携帯画面で朝子の写真を見せると、女将さんは笑った。


「あー、うんうん、来たで。…なに、あんた、もしかして刑事さん?あの子、そんな悪い子に見えへんかったけどなあ。なんつって」


女将さんは冗談を言って自分で笑った。


「あ、いや。僕は彼女の夫です。…訳あって、彼女を追ってまして」


あ、この言い方だいぶ怪しくないか?

ヤバいDV夫が必死に逃げる妻を追っているみたいじゃないか?

なんとなく、急いで自分の免許証を見せる。


「…あっはっはっは!なーんや、あんた、あの子に愛想尽かされちゃったん。お兄さん、男はな、マジメなだけじゃあ、あかんよ」


何も言っていないのに力強く肩をバシバシと叩かれる。

おまけに、女将さんは後ろの常連客達に向かって楽しそうにこう話しかけた。


「なー、このお兄さん、朝ちゃんの旦那さんやって!」


「なんや!兄ちゃん、朝ちゃんの旦那さん?はぁー、なんか、小綺麗にしてっけど、冴えねぇなー!なら、まだ俺のがイケてへん?ガハハハ!」

「お前は昔意気がってた、ただのハゲやろが!そんなら俺が口説いた方が可能性あるで。ガハハハ!」


「あーんなに明るくて綺麗な子やし、いくつになっても男はほっとかへんよ」


女将さんが、ドンマイとでも言いたげに、今度は優しく肩にポンと手を置いた。

なんか…俺、知らないおばさんとおっさん達にディスられてる。こんなところまで来て、なんで不快な思いをしなきゃいけないんだ。


俺は急に惨めになって、お礼だけ言うと、飲んでもいないビールの代金を置いて立ち去ろうとした。


「あ、兄ちゃん!気ぃ悪くしたんならごめんな。朝ちゃんならな、次は大間崎に行くっちゅうてたで」


後ろを少し振り返って、常連客に頭を下げると、そのまま店を後にした。



ちょっと待て。大間崎って………青森!?

本州最北端の地!?


朝子の奴、初回から飛ばしすぎだろ。

くそー、見つけたら、文句言いまくってやる。

そんで、一発殴……ると本当にDV夫になっちゃうから……絶対ほっぺた、つねってやる!!

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