88日目 カンニング?

 7月5日、修平は英語のテストの結果を受け取ると、83点という点数に驚くとともに嬉しさがこみあげてきて、思わずガッツポーズをしてしまった。その様子をみていた、ヒロも満足そうな笑顔をかえしてくれた。

 授業の終わりに、

「大森はこの後、職員室に来るように。」

 先生がいい、先生と一緒に職員室に行くことになった。


 職員室に先生と一緒に入ると、先生は厳しい表情で修平に話し始めた。

「大森、今回のテストだけど急にどうした。他の教科の先生にも聞いてみたけど、数学も国語も80点超えてたぞ。」

「そうなんですか?」

 まだ結果を知らなかった数学も国語も高点数であることで、テンションが上がり思わず大きな声を出してしまい、職員室にいた先生たちの注目を浴びてしまった。

「それでだ。今まで赤点ばかりで、補習授業常連のお前が80点越えっておかしいと思わないか?何かしたか?今のうち、正直に言えば怒らないぞ。」

 どうやら、カンニングなど不正行為が疑われているらしい。

「そんな、まじめに努力した成果ですよ。」

 疑われた憤りを隠しながら、修平は答えたが、

「そうか、そうならいいんだがな。」

 完全に修平の言い分を信じたわけではなさそうな表情で、先生は返事をした。


 夕方、部活の時間となり、修平は1年生の北野と練習していた。

「北野、だいぶん上手くなったな。でも、もうちょっと速くラケットを戻さないと次のボールに間に合わないぞ。」

「ありがとうございます。大森先輩のおかげです。」

「ほめても何も出ないよ。もう一回やってみようか。」

 修平は副キャプテンになってから、今まで以上に1年生の指導にあたっていた。以前は修平が練習をさぼりたいために1年生と練習をしていたが、最近は1年生に教えて上達していく姿を見ていくのが楽しくなってきた。


 ひとしきり、1年の練習に付き合った後、

「大森、俺の練習に付き合えよ。」

 修平が副キャプテンになったことに嫉妬している小柴が、声をかけてきた。最近はあんまり仲が良くはないが、断るわけにもいかず小柴とラリーを始めた。

 さすがに1年生と違い小柴のボールは速く力がある。しかし、小柴の体の向きや視線からコースや回転が読める。読めれば返すことはでき、返し続けるうちに小柴がミスをした。そんなことを繰り返していくうちに、

「もういい。」

 小柴が負けを認めたみたいで、練習を中断した。今まで格下に思っていた修平に負けたのが悔しい様子だった。


 その日の帰り道、修平はヒロに部活での出来事を話した。

「教えることで、自分も学ぶことってあるよね。私も修ちゃんに教えていたおかげで、テストの点数いつもより良かったよ。」

「そうかもな。1年生に教えるために、相手の動きを見るようになったもんな。ところで、テストの点数良すぎて、先生にカンニング疑われちゃった。」

「次も点数が高ければ、疑いがはれるから、勉強頑張ろうね。」

 ヒロが嬉しそうに修平に語りかけた。ヒロが女の子になって以来、修平は勉強にも部活にもいいことが続いている。自分自身の何かが変わってきていることに気づいた修平だった。

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