69日目 梅雨

 6月16日、部活の新体制になって4日目が過ぎ、3年生のいない練習風景にも慣れてきた。そんな中、修平は1年生と練習していた。

「バックハンド打つときは、肘は動かさない方がいいよ。」

 修平は1年生にアドバイスをする。

「大森先輩のアドバイスって具体的でわかりやすいですね。」

「そうかな?」

「山下先輩だと、『グッドためて、パチンと打つ』って感じで、よくわからないですよね。でも大森先輩は、具体的でわかりやすいです。」

 美織と練習ているうちに、修平は知らず知らずのうちに教え方が上手くなったみたいだ。


「副キャプテンらしくなってきたな。」

 そんな様子を見ていた、同級生の小柴がひやかしてきた。

「小柴、お前の方が上手いんだから、たまには1年に教えてあげろよ。」

「いやだ。俺は自分の練習に集中したい。1年の面倒は、副キャプテンがみろよ。」

 そのとげのある言い方に、卓球の実力は彼の方が上なので、修平が副キャプテンになっていることへの、ひがみを感じた。


「やっぱり俺って、副キャプテンとかそういう役割に向いていないのかな?」

 その日の練習の帰り道、ヒロにそのことを愚痴ると、

「大丈夫だって。最初だけだよ。修ちゃんは今まで通りやっていけば、自然とみんなが認めてくれるって。」

 ヒロはいつでも、修平の味方で励ましてくれる。嫌なことや不安なことをヒロに話しているうちに、気分が晴れてくる。

 

 学校から駅まで半分ほど歩いたところで、雨がぽつりぽつりと降り始めた。

「雨降ってきたかな?傘持ってないよ。」

 修平がそんなことを言っているそばから、雨足は強くなり始めた。

「駅まで急ごう。」

 次第に強くなり始めた雨の中、修平とヒロは駅まで走り始めた。駅に着いた頃には本降りとなり、修平とヒロはかなり雨に濡れてしまった。


「びしょびしょだな。」

 修平はそう言いながら、ヒロの方を見た。雨に濡れたヒロは、妙に色っぽく感じた。

「ごめん、私が走るのが遅かったから濡れてしまったね。」

 ヒロは申し訳なさそうに謝った。

「ヒロのせいじゃないよ。いきなり降ってきたし。ヒロもタオル使うか?部活の後で少し臭いかもしれないけど。」

 ヒロは修平からタオルを受け取り、濡れた髪などを吹き始めた。

「ありがとう、洗って帰すね。修ちゃんのにおいがして、洗うのもったいな。」

「あとこれに着換えたら。」

 修平は部活の着替え用もってきたTシャツのうち、未使用なのが1枚あることを思い出してヒロに渡した。

「いいの?修ちゃんはどうするの?」

「体操服があるから、それに着替えて帰ることにするよ。」


 二人でトイレで着替えることにした。先に修平がトイレに入り、誰もいないことを確認してヒロを呼んだ。

 着替え終わった後、修平は誰もいなくなったタイミングで、ヒロが入っているトイレの個室のドアをノックした。

「ヒロ大丈夫だよ。今なら誰もいない。」

 修平のTシャツに着換えたヒロが、トイレの個室から飛び出しあわててトイレから出て行った。ちょうどトイレに入ってきた男性が、ヒロの姿をみて驚いていた。


「修ちゃん、ありがとうね。コンビニで傘買ってから帰るね。」

「大変だったのに、何か嬉しそうだな。」

 修平のTシャツをきたヒロは、なぜか嬉しそうにしていた。

「タオルもそうだけど、やらしいことに使うなよ。」

 修平は念をおして、ヒロと別れた。そうは言ったもののその晩修平は、雨に濡れて透けてみえたヒロの水色のブラジャーが脳裏から離れず、悶々とした夜を過ごすことになるとは、このときはまだ思ってもみなかった。

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