66日目 俺が副キャプテンに?

 6月13日、部活の準備をしているところで、

「山下と大森、ちょっといいか?」

 キャプテンに呼ばれて、山下と一緒に部室に行った。部室に入ると、インターハイ予選も終わり部活引退となった、3年の先輩たちが部室の片付けをしていた。修平たちが部室に入ってきたのに気付くと、いったん片付けの手を休めた。そして、キャプテンが話し始めた。

「3年で話し合った結果、次のキャプテンは山下。副キャプテンは大森にすることにしたから、よろしく。」

 一番強い山下のキャプテンは当然としても、修平の副キャプテンは意外で驚いてしまった。

「なんで、俺が副キャプテンなんですか?小柴や大里もいるじゃないですか?」

 修平は他の2年生部員の名前をだして、できれば面倒そうな役割は辞退したいところだった。

「大森、そういうところだ。面倒なことは他人に押し付ける。部活と言えども教育の場だから、お前のそういう性格を直すいい機会だと思うぞ。」

キャプテンが大森を選んだ理由を話してくれた。

「でも、実際1年の面倒見はいいし、みんなの話もきちんと聞いて調整役としてちょうどいいとも思っている。」

 1年の面倒見がいいと言われたが、実際は1年に教えているふりをして練習をサポっているだけだし、みんなの話をきいているといわれても、反論するのが面倒だから受け入れているだけなんですけど、とは期待に満ちた目で話すキャプテンには言えずに、副キャプテンの役割を受け入れることになってしまった。


 新体制での部活の初日も終え、卓球台を片付けていると、

「副キャプテン、就任おめでとう。」

 美織が茶化すような笑みを浮かべながら美織が声をかけてきた。

「そういう美織だって、女子のキャプテンだろ。」

「女子のキャプテンと言っても、4人しかいないからね。」

「男子も7人だけど、こんな役職に就くの初めてだから、ちょっと気が重い。」

「大丈夫だと思うよ。大森君、教えるの上手いし。」

 美織の練習に付き合うようになって、他人に教えることに面白さを感じてきているのも事実だ。1年生に教えていたのも、練習をさぼりたいと思いつつも、教えた通りに上達していく姿をみるのが楽しかったこともある。


 その日の帰り道に、ヒロに副キャプテンになったことを伝えると、

「修ちゃん、すごい。」

 ヒロは素直にほめてくれた。

「ちゃんとできるか、不安なんだけど。」

「多分、大丈夫だよ。リーダーもみんなを引っ張っていくタイプと、後ろから押し上げるタイプがあるから、修ちゃんは押し上げる方で頑張ったら?」

「そうかな?できるか不安だけど。」

「『役が人を育てる』って言葉があるから、やっていくうちにできるようになるよ。私も女の子になって、自分の描く女の子のイメージになろうとして、女の子だったらこんな仕草するなとか、女の子だったらこんなこと言うなとか、行動するようになって、そのうち自然にふるまえるようになったし。」

 女の子になったヒロらしい励ましだった。

「そんなもんかな。まあ頑張ってみるよ。ありがとう。」

 ヒロの笑顔を見ているうちに、なんとなくやれそうな気がしてきた。

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