第4話 捕捉

 視界の隅に表示されているマップでは、目の前の稜線を越えると敵が見えるはずだった。

 それでも距離は四百メートル以上ある。

「ゆっくり行きましょう」

 縦隊の先頭を歩く駿は、後ろを振り返ると由宇を見て肯いた。

「ハミングバードの映像では数は8人です。谷を越えた先の緩斜面を登り始めてます」

 体重が軽い分だけ瑠璃のスーツはペイロードに余裕がある。衛星通信機やUAVからの受像機能は瑠璃のスーツだけが搭載していた。

 駿が一歩足を進める毎に視界が広がる。目の前の稜線を越えた先に次の丘が見えるとロウワーレッグを折りたたみ姿勢を低くした。そして膝を着くと首を伸ばすようにして先を覗う。

 敵は簡単に見つかった。木立に見え隠れはしていたが、パイロットスーツ姿の一人を除く七人のカジュアル姿は、緑に溶け込んではいなかったからだ。こんな山中に降りるつもりは無かったのだろう。

 駿の左では由宇が同じようにして前方を覗っていた。

「ここからやる?」

 紫苑はスコープを調整しながら言った。若干震える声からもはやっていることが分かる。

「ヒメとミニーはここで準備して下さい。私とシュンは迂回して側面を衝きます」

 紫苑の狙撃銃や瑠璃のグレネードは十分に射程内だが、駿と由宇の小銃では攻撃が難しい距離だった。特に駿の腕では命中弾を期待するのはまず無理だった。

「私たちはBZ57付近まで移動します。報告お願いします。シュン行きましょう」

 駿は肯くと膝を着いたまま後退した。そしてスーツをハイモードに切り替えると、稜線から顔を出さないように気をつけながら足早に移動する。一歩が大きいので徒歩なら走っている速度だ。おまけに敵には負傷者もいる。側背を衝くことは難しくないだろう。

 二人はすぐに目標としていたBZ57に到着した。

 敵までの距離は二百メートル程。駿ではおぼつかないが由宇ならば十分に狙える距離だった。

「ヒメ、ミニーこちらユウ、迂回機動完了、攻撃準備完了。そちらの準備状況は?」

「こちらヒメ、二人とも準備は出来てるよ。いつでもどうぞ」

「了解。ミニー、投降勧告を行って下さい。指示に従うようなら武装を解除させてBZ35にある岩の上に立つよう指示して下さい」

「アイ・サー。投降勧告を行います」

 すぐにも勧告を行う声が聞こえるかと思ったが、なかなかその声は響いて来なかった。おそらく瑠璃も自分を落ち着かせているのだろう。

「斜面を登坂中の者に告ぐ。お前たちは包囲されている。武器を捨てて投降しなさい」

 瑠璃の声はもともと幼さを感じさせるような声色だった。おまけに今は緊張の色も隠せない。威圧的な投降勧告と言うには程遠かったが、雰囲気で圧される相手でもないはずだった。

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