第13話

一方でシェイクはリンゴのもとへ駆けると、突然走りながら跳躍。


そのままリンゴの大きな体に両足をつけて、そこからさらに飛び上がった。


「いってぇなシェイク! いきなりなんだよ!?」


「ごめんね、リンゴ。でも、おかげ一気に飛び込める!」


リンゴを踏み台にしたシェイクは、下に見える警察官たちを踏み進めながら迷わず突っ込んでいった。


想像もしていない方法で飛び込んできたせいで、慌てた警察官たちは、自分たちの頭上を移動するシェイクを触ることさえできない。


そんなシェイクの狙いは、この集団に指示を出している男だ。


「目標が自分から突っ込んできたぞ! 早く取り押さえろ!」


リーダー格の男が声を張り上げたが、シェイクは止まることなく、さらにはリンゴも警察官たちを殴り飛ばしながら向かってきていた。


ふたりを止められず、ついにリーダー格の男の近くにシェイクが飛んでくる。


「くッ!? 誰かあいつを早く止めろぉぉぉッ!」


警察官たちの頭を踏んで飛んでいたシェイクは、空中で体を回転させてリーダー格の男の顔を蹴り飛ばした。


顎にもろに入った蹴りの衝撃でリーダー格の男が気を失うと、警察官たちは動揺し、そこにリンゴも割って入って来る。


「次にまた大輝梨だいきりに手を出したら、こんなもんじゃすまないからね」


「おまえって暴力反対って面してるくせに、こういうことキッチリやるタイプだよな。ほら、今のうちに逃げるぞ」


リンゴは強引にシェイクの体を担ぐと、浮足立っている警察官たちを振り切って、すでに走り出していた羅門の運転する車に飛び込んだ。


後部座席に飛び乗ったのもあって、シェイクを抱えたリンゴが転がっていた大輝梨を押し潰す。


「ぐえ!? いてぇなバカ!」


「あん? 助けてやったのになんだその態度は? テメェには言いたいことが山ほどあるが、あとにしといてやる。おい、羅門のおっさん。もっと飛ばせよ」


「任せろ。邪魔するヤツは全員轢き殺してやるぜ」


羅門は口にした通りに、周りを囲んでいた警察官たちを轢き殺す勢いで車を飛ばし、物凄いスピードでその場から去っていった。


リーダー格の男が倒されたせいなのか。


警察官たちが追いかけてくることはなく、シェイクたちは見事に大輝梨を助け出すことに成功。


バックミラーで追撃がないことを確認した羅門は、車のカーステレオを操作して音楽をかける。


そしてハンドルをドラムセットの代わりにして叩きながら、羅門がご機嫌な様子で鼻歌を口ずさんでいた。


スピーカーから音楽が流れると、転がっていた大輝梨、シェイク、リンゴが揉み合いながらも体勢を直して、座席に腰を下ろす。


「おまえらなんで来たんだよ!? あいつらは罠を張ってたんだぞ!」


大輝梨が叫ぶと、リンゴが眉間に皺を寄せて、彼に手を伸ばそうとした。


だが、ふたりの間にいたシェイクがリンゴを押さえて、大輝梨に向かって言う。


「そりゃ行くよ。だって大輝梨が捕まってたしね」


「それは答えになってねぇだろ!? 俺はおまえを騙して――ッ!?」


リンゴがシェイクの体を抜けて、大輝梨の顔面に手を伸ばした。


右手で口を掴まれて喋れなくなった大輝梨に、リンゴが怒鳴りつける。


「ベラベラ喋ってんじゃねぇぞコラ! 舌を引っこ抜いてやろうか!? あんッ!?」


「フガ! フガフガ! フガガッ!」


後部座席でシェイクを挟んで揉み合い始めた大輝梨とリンゴを見て、羅門が大笑いしていた。


一方でふたりにもみくちゃにされているシェイクは、ため息をつきながらされるがままになっている。


そんな状態で進み、アクセル全開で走っていたのもあって、車の先にはドロップタウンの街並みが見え始めていた。


「おい、おまえら。もうその辺にしとけよ。シェイクが困ってんだろうが」


羅門の一言で我に返った大輝梨とリンゴは、それぞれ手を止めると、フンッと鼻を鳴らして自分側にある窓のほうへ顔をやった。


ふたりの揉み合いに巻き込まれたシェイクは、解放されると「うぅ」と呻めいた後にホッと安堵の表情になっていた。


すると、窓から外を見ていた大輝梨がそっと口を開く。


「いろいろ迷惑かけたな。……ありがと」


それはつぶやくようなか細い声だったが、大輝梨の言葉を聞いたシェイクと羅門は白い歯を見せ、不機嫌そうだったリンゴも口角を上げた。


それから車はドロップタウンに入り、街の中を進んでいく。


そこら中に掘っ立て小屋が並んでいて、とても綺麗とはいえない光景だが、いつものように住民たちの表情は明るかった。


そんな景色を見て、大輝梨の表情が緩んでいる。


「おっ、あいつら。まさかずっと待ってたのか?」


羅門が速度を落として車を店の前に停めると、レザージャケットを着た子供たちが全員で待っていた。


そして、シェイクたちが車を降りると、子供たちが抱きついてくる。


「シェイクも店長も無事でよかったよ」


「うん、リンゴも手伝ってくれてありがとね」


「ついでに大輝梨もな」


「俺はついでかよ!?」


大輝梨はいつもの悪態をつかれると、子供たちは笑いながら「みんな逃げろ!」と叫んで一斉に駆け出していった。


そんな子供たちを見た大輝梨は、強張った顔でその身を震わせていると、シェイクが彼に言う。


「おかえりなさい、大輝梨」


「え? あぁ、ただいま……」


声をかけられた大輝梨は、ただシェイクに呆けた顔を返すのだった。



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ディストピアのろくでなし コラム @oto_no_oto

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