第12話

指示をされた警察官たちが、取り押さえた大輝梨だいきりを乱暴に車に放り込もうとすると、そこへ一台の車が向かってきていた。


かっ飛ばしてくる車を見て、大輝梨が表情を歪めると、リーダー格の男は笑みを浮かべる。


「な、なんで……なんで来るんだよ……? 置いていったのに!?」


「その反応、どうやらあちらから来てくれたようだな。予定とは違ったが、君も少しは役に立ったようだ」


「来るんじゃねぇよバカ! ぐはッ!?」


「静かにしていたまえ。君の出番はもう終わりだ」


リーダー格の男が大輝梨を黙らせようと、彼の腹部へ蹴りを入れた。


男は呻きながらうずくまったのを見て鼻を鳴らしていると、すでに近づいて来ていた車が、まるで大輝梨まで轢き殺すかの勢いで突っ込んでくる。


これにはさすがの警察官たちも慌てて避け、リーダー格の男も大輝梨から離れた。


車の窓から人が顔を出す。


「大輝梨! 待っててね、今助けるから!」


窓に揺れる長い髪――シェイクが声を張り上げて車から飛び降りた。


警察官が大輝梨から離れると、車は急ブレーキをし、シェイクに続いてもうひとりの男が降りてくる。


逆立てた髪をした筋骨隆々の男――リンゴが指の関節をボキボキと鳴らしながら、警察官たちを睨みつけているシェイクの横に並んだ。


リンゴの口角がゆっくりと上がっていく。


「ざっと見て20、30人ってとこか。おい、シェイク。こいつらは俺に任せて、おまえは早くスーツ野郎を車に運べ。羅門らもんのおっさんはいつでも出せるようにしとけよ」


「うん。お願いね、リンゴ」


「あんまし無理すんなよ」


リンゴにそう言われたシェイクは、うずくまっている大輝梨に肩を貸し、羅門のほうは車内から返事をした。


シェイクに車に運ばれる大輝梨は、俯きながら歯を食いしばって言う。


「どうして来たんだよ……。しかも、羅門さんやリンゴまで連れてよぉ……。ふたりが一緒にいんなら、俺がおまえを騙してたことはわかってるはずだろうが!」


「たしかに話は嘘だったかもしれないけど。大輝梨は僕が捕まらないように置いていったじゃないか。やっぱり君は、優しいよ」


「くッ!? 答えになってねぇんだよ、お人よしが……」


瞳を潤ませて悪態をついた大輝梨に、シェイクは微笑みを返した。


そのすぐ側では、向かって来る警察官たちを殴り飛ばすリンゴの姿があった。


同時に2、3人が飛びかかってくるが、リンゴはこれをものともせず、けっして車には近づかせない。


その勢いはすさまじく、警察官たちもあまりの彼の強さに尻ごみし始めていた。


いくら取り押さえても振り払われ、仲間がやられたと思ったら次の瞬間には衝撃が顔を貫いている。


多勢などものともしない圧倒的な腕力は、彼らの戦意を削るには十分すぎるものだった。


そんな中、リーダー格の男が前に出て、リンゴに声をかける。


「ドロップタウンにいる3つの腐った果実のひとりだな。その容姿からするに、たしかリンゴとかいったか。話では誰ともつるまない男と聞いていたが、なぜ我々の邪魔をする?」


「そりゃテメェらが気に入らねぇからさ。それと腐った果実って、いつの話をしてんだよ」


「気に入らないというだけで大それたことをしでかす……。さすがはドロップタウンの有名人だ。自分のしていることすら理解できないらしい。たかだかヒセイキひとりを助けるために、我々を敵に回すか」


「スーツ野郎なんて知るか。俺はシェイクに借りがあるんだよ。一生かけて返せねぇ、デカい借りがな」


リンゴが食い止めている間に、シェイクは大輝梨を車の後部座席へと寝かせた。


それを確認した羅門がアクセルを踏んでエンジンを吹かすと、声を張り上げる。


「よし、大輝梨は取り戻したな。さっさとズラかろうぜ!」


「うん。だけどちょっとだけ待ってて。一発かましてくるから」


シェイクはそう言うと車から離れて、戦っているリンゴのところへと走り出していった。


大輝梨が慌てて身を乗り出す。


「はあ!? こんなときになにいってんだよシェイク! 早く逃げねぇと捕まっちまうだろ!?」


「いいからおまえは寝てろよ。シェイクは一度決めたら誰がなにを言っても聞かないからな」


「羅門さんまでなに言ってやがるんだ!?」


羅門はニカッと歯を見せると、車を切り替えした。


周囲に停まっていた警察の車にぶつかりながら、逃げる方向へとハンドルを回す。


突然車が動いたせいで車内に転がった大輝梨に向かって、羅門は言う。


「おまえが受けた屈辱を晴らそうってんじゃねぇか。安心しろ。シェイクもリンゴもすぐに戻って来るからよ」

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