第10話 さよなら地上

 空に打ち上げられた巨大な卵は、白い線を描いて小さくなっていく。


「まるでコミックアニメみたいだ」


 そんな様子を見上げながら、アポロは呟いた。ポッドはどんどん高度を上げて、やがて軌跡を除いて見えなくなる。


 アポロは帰らなかった。その代わり、ポッドには別のモノが乗り込んだ。初めから決めていたことだ。


 バベルの人々とヨル。両方救えなければ、なんのための天才なのか。自分は案外欲張りだったらしい。それも、地上に来て初めて知ったことだった。


 郷愁はじんわりと視界を滲ませる。


「よかったの?」


 隣に並んだヨルも、首をいっぱい伸ばして青空を見上げている。


「かまわないさ。彼らにも少しは苦労してもらわないと」


 アポロはヨルの言葉におどけて応えた。


 ヨルは一命を取り留めた。2人ともかなり危ない容体で、特にヨルの方は一時は深刻なところまでいったのだ。それでも先に元気を取り戻したのだから、地上暮らしのゴーストは伊達じゃない。


 アポロももう一度、青空を見上げて自分を地上に運んだ揺籠に想いを馳せる。


 座席には花束。ボクらからのとびっきりのプレゼントだ。ちゃんとメッセージカードも添えてある。




 ハロー新世界の皆様。


 こちらは元気です。僕らの地球は最高の愛を取り戻しました。


 いつでも遊びに来てください。





 もちろん植物の種や土壌のサンプルも積んでいる。ポッドの設計図もね。付録はヨルが命懸けで集めてきたパーツ。人間の重さを考えれば軽い軽い。


 これだけあれば、足りない部品はバベルでまかなって、なんとかアポロ抜きでもポッドを作れるだろう。自分でやるなら5年ぐらいの予想だから、8年くらいかな。


「届くかなあ」


「届くさ。できれば彼に最初に受け取ってほしいな」


 アポロは赤毛の青年の横顔を思いながら、ヨルの手をとって歩き始めた。


 向かう先には、豊かに実った緑の畑が待っている。



 



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