「ピアノの部屋」
――引用元/洒落にならないほど怖い話のタカラバコ
https://tkr■■kwq815.jp/■■■00/sr■9/216■/
怖くなかったらごめん。俺の実体験です。
うちの親父は独身の頃からバンドやっててギターが趣味。そんで、じいちゃんばあちゃんと暮らすための二世帯住宅を建てる時、親父は念願の防音室を作った。家族兼用の電子ピアノを置いてるから、うちではなんとなくピアノの部屋って呼んでる。
じいちゃんは足がちょっと悪かったんで、一階がじいちゃんの世帯。うちは外スロープと階段上がって二階の玄関から入る造り。階段は外付けだけだから一階と二階とは内側で繋がってなくて、ピアノの部屋は地下にある。
そんなもんで、俺が二階からピアノの部屋に行くとなると、一度靴履いて玄関出て、一階に降りて、家の反対側まで回って、専用のドア開けて靴脱いで階段降りてようやくたどり着く感じ。
細くて狭い土地で駐車スペースを確保するためにそうなったらしいんだが、靴脱いだり履いたりだし正直超不便。
色々めんどいから、兄弟みんなピアノの練習しに地下へ降りるのは嫌そうだった。雨の日とか最悪だし。
そんなわけで妹も弟も「別に好きでピアノ頑張ってたわけじゃねーし」と早めの反抗期を発揮して、せっかく造ったピアノの部屋にはあまり立ち入らなかった。というか弟も妹も小さかったし、地下室ってのがどことなく不気味だったんだろうな。
あれだけ毎日「ピアノの練習したの!」って叫びまくってた母ちゃんも、新しい家に住み始めてからピアノのことをあまり言わなくなった。
じいちゃんは階段を降りるのが難しいんで、地下の防音室には初めから興味なさそうだったが、ばあちゃんのほうはなぜか、弟達よりも地下室を嫌っていた。
「座敷牢みたいで気色悪い。あたしは地下室なんて嫌いだね。お天道様を撥ねつけるような所に、生きてる人間が入り浸るもんじゃないよ」
って感じで死ぬほど文句言う。どうも防音室というより地下が嫌いらしい。
そんなわけで「ピアノの部屋」なんて呼びつつ、親父が昔のバンド仲間呼んだりしてギター三昧。実態は「おっさん達の部屋」だった。
平日はたまに母ちゃんがピアノを弾いてたらしいが、たぶん俺のほうが頻繁に使ってたと思う。なにしろ防音室だから、放課後に友達とゲームしながら騒ぐのにはうってつけだし。
ただ、中三のときに初めて女子グループも呼んでハロウィンパーティー的なことしてたら、いきなり「九時になりましたよ。お開きにしなさい」って母ちゃんの声がして、死ぬほどビビったのは忘れられない。
いつからか知らんが、音響器具なんかでごちゃついた辺りにしれっとペット用の監視カメラ置いてたらしい。マイク付きでスマホからリアタイで映像チェックできるやつ。
あの日あの時その場にいたの全員中坊で絶賛思春期直進中だったから。気まずいやら恥ずかしいやらで、猛スピードで「うおぉーっ!!」て片付けして五分で解散したな。
そんながことがあった&ぼちぼち受験勉強で忙しくなってきて、俺もすっかりピアノの部屋に入らなくなった。
前置きが長くなってすまん。
家を建てて一年くらい経った頃かな。ばあちゃんがちょっとボケ始めてしまった。今思えば、何十年と住み慣れた家から引っ張り出したせいかもしれん。
ばあちゃんはまだ七十代だったんで、家族みんな結構ショック受けてた。
よくある被害妄想とか、性格が豹変して怒りっぽくなるのとかは軽く済んだんだけど、夜中や明け方に徘徊するのはどうにもならなくて、じいちゃんから「ばあちゃんそっちにいるか!?」って一日一回ペースで電話がかかって来るようになった。
実際、二階にいるってことは結構多かったんだよな。娘や孫たちの面倒を見ねばという責任を感じて来てたのかもしれない。しらんけど。
あるとき、どこを探してもばあちゃんがいないってことがあった。大抵はいないと言っても家の敷地内にいるんだよ。遠くても斜向かいの駐車場辺りで見つかるんで無事捕獲できたんだけど、その日はマジでいなくなった。
で、その日に限って知り合いの結婚式で家族がいなくて、二階には部活を理由に参加を断った俺のみ。ばあちゃんは二階には来ていなかった。
まさか結婚式に行った家族を追いかけて遠くまで歩いて行ったのか、とじいちゃんはめちゃめちゃ心配してた。
俺も近所の公園とか目ぼしい場所に行って探してみたけど、やっぱり見当たらない。じいちゃんに電話で報告しながら「一旦落ち着こう」つって。
「そういえばピアノの部屋はじいちゃんも見てないんじゃないか?」と気づいて、すぐ母ちゃんに連絡。運転中の母ちゃんに代わり、親父のスマホで地下の監視カメラをチェックしてもらった。
そしたらばあちゃん、いたんだよね。あれだけ気味悪いって毛嫌いしてた地下室なのに。何が楽しいのか、一人でケラケラ笑ってるらしんだわ。マイクで声かけても、ばあちゃんはほとんどまともな受け答えをしないらしく、俺は「早く上に連れて行け」ってものすごい剣幕で親父に怒鳴られた。
言われた通りダッシュで家に戻り、ピアノの部屋へ降りると、そこではご機嫌なばあちゃんが一人でふにゃふにゃと何か喋っていた。俺はばあちゃんを発見できたことに胸を撫でおろして、無事に一階まで連れ戻すことに成功。じいちゃんにはなるべくばあちゃんに目を光らせて過ごしてもらい、その日はそれで終わった。
翌日、式を終えて家族が微妙に暗い感じで帰ってきた。
「なにその感じ」と思ってたら、無言で親父にスマホを差し出され、俺はばあちゃんが映った昨日の録画映像を見せられた。
「は?」って数秒、目を疑ったよ。
部屋の中に、めちゃくちゃデカくて白い人が膝を折って座ってた。定点カメラだから全体は映ってないんだが、デカすぎて天井に後頭部が付いて背中が曲がってるのはわかる。
画質が悪くてぼやーっとしてるんだけど、目鼻っぽいのが見当たらないから包帯ぐるぐる巻きのミイラ男みたいに見えた。
髪の毛なのか包帯なのか、それともお札的な紙なのか、何か白い束が顔に垂れてかかってる。白い影じゃないんだ。どこもかしこも白色の巨大な何か。
白くなかったのは口元だけだったけど、人間みたいな口だったかはわからない。
よく見えなかったんだ、そいつの口のあたりからはカラフルな花みたいなのが飛び出てピロピロ動いてたから。
ばあちゃんはそれに向かい合って正座してニコニコしながら話してるんだけど、その底抜けに明るくて楽しげな様子も、俺はちょっと不気味だと思ってしまった。
あと、こんなヤバい現場に俺を突入させた親父もヤバイ。
俺も母ちゃんもアレを見てからピアノの部屋には完全に入らなくなったけど、親父だけは今でもバリバリおっさん仲間とバンドやってるし。
蛇足かもしれんが、少しだけ後日談。
ピアノの部屋から引っ張り上げて以来、ばあちゃんの口癖が「綺麗な手、本当に良い手だね」になった。一体何をそう言ってるのかは不明。
あれから半年経って、ばあちゃんは施設に入ることが決まったけど、まだ言ってます。
「綺麗だね、また手を見せてちょうだいね」って。
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