第6話 野生のゴーレム?

「あれ、どう思う?」


 ゼフィアが視線で示す先には三メートルはありそうな石像が一体、歩いていた。石像が歩いている通路は今までと同じ材質だが、全面が仄かに光っている。


「ロックジャイアント……にしては小さいわね。ガーゴイルとも違うし……ゴーレム?」


 メラニーが答えた。

 背中を向けて歩く石像は、ずんぐりとした体躯に縦長の頭が付いている。足は胴体に比べて短いようだが、逆に腕は長かった。


「野生のゴーレム……なわけねぇか。迷穴型だと思っていたんだが、迷宮型だったか」


 ルーファスが言う。五人はゴーレムから距離をとって、静かに後をつけていた。


「迷宮型ならどこかにゲートがあったはず。でもこの辺りには僕が造った門以外にはなかったよ」

「俺様が確認したんだ、間違いない」


 ルーファスの言葉に、オーランとファルサが答える。


「じゃがあれは間違いなく人工物じゃ。ルーファスが言ったように、ゴーレムが自然発生するなんて話は聞いたことがない」


 ダガートの言葉に、メラニーが頷いている。

 ゴーレムはオーランたちに気づく様子もなく、黙々と通路を進んでいた。枝道もあり蛇行もしているが、基本的に一本道だ。


「迷宮型なら所有者がいるはずよね。記録は残ってないの?」とメラニー。

「僕も全部の迷宮型ダンジョンを知ってるわけじゃないけど……知ってたら探知ダウジングしに来たりはしないよ」


 ダンジョンが迷宮型の場合、それはどこかの魔術師が造ったということだ。国家や貴族、裕福な商人などが魔術師に依頼してダンジョンを造ることも多いが、いずれにしても所有者が存在する。


「もしかしたら協会の記録にはあるのかもしれないけど……」


 そして迷宮型のダンジョンはダンジョン管理協会という組織が、所有者と場所を記録して残している。


「でもこのダンジョンに入る為の門はなかったんだ」

「なら隠しダンジョン……ゲートが隠してあった可能性は?」

「絶対にねぇよ。俺様が確認したんだから、間違いない」


 メラニーの問いにファルサが答える。その口調は自信に満ちていた。


「この通路に入るまでは普通の迷穴型だったんだ。まだ造りかけじゃねぇのか?」


 実際に通路全体が仄かに光を放っている以外は、今までルーファスたちが歩いて来た場所と大差はない。


「それでも門がない理由にはならないよ。出口のないダンジョンに籠もりっぱなしってのは……まぁ、普通は無理だから」


 ルーファスの問いにオーランが答える。台詞の後半は少し歯切れが悪かった。

 そうして話している間も、ゴーレムは歩いていく。そして通路が終わり、ぽっかり空いた穴の向こうに入って行った。

 ルーファスが合図をして皆の足を止め、視線をゼフィアに送った。彼女は頷くと、音もなくゴーレムの後を追う。ゼフィアはすぐに帰ってきた。


「行き止まりだけど、広い部屋みたいになってる。突き当たりには扉があったわ。それと、ゴーレムがもう一体。なんていうか、扉を守ってるみたい。どうする?」


 ゼフィアはオーランを見ながら言った。今回の雇い主はオーランだ。このまま進めばゴーレムとの戦闘になるかもしれない。そしてもしここが迷宮型ダンジョンであったのなら、オーランたちは所有者に黙って入ってきた侵入者ということになる。


「一度帰って協会に問い合わせてみてもいいけど……」オーランは顎に手を当てて僅かに俯く。「ファルサがないって言う以上、ゲートが隠されてる可能性はほぼゼロだ。そして外界と遮断したダンジョンで生き続けることはまず無理。所有者がいたとしても――」

「もう死んでるか、うち捨てれたダンジョン……ってことか。なら少々荒らしても問題はねぇな?」ルーファスがニヤリと笑う。

「そうだね。魔力マナは間違いなくこの先へ流れるようになってる。扉があったんなら、その先に魔力マナが必要になる何かがある」

「何もなくて退屈しておったところじゃ。シャロムの名にかけてこの先の未知へと至ろうではないか」


 ダガートが信仰する神の名を言った。シャロムはこの世界で信仰される知識の神の名だ。


「それがいいものなら、ダンジョンの価値も上がるし高く売れる。わたしたちの報酬も上がるって寸法ね」ゼフィアが笑いながら言う。

「メラニーもそれでいいな?」ルーファスがメラニーを見る。

「あ、あたしは新入りだし、みんなの意見に従うわ」

「よし、なら決まりだ。準備ができ次第、突入する。戦闘になるのを覚悟しておけよ。あと、武器と鎧に強化の付与呪文エンチャントスペルを頼む」

「わ、わかったわ」


 緊張した面持ちでメラニーが言う。杖を強く握りしめていせいか、指が白くなっている。


「大丈夫。感覚の強化と違ってそこまで繊細な魔力マナ制御は必要ないよ。それにダンジョン内にある魔力マナを上手く利用すれば、魔術師メイジは敵なしさ」

「だからその魔力マナ制御が苦手なんだってば……。そういえばあなたも戦うの?」

「うん。ここは魔力マナが濃いからね。外と違って僕でも役に立つから」そう言ってオーランはルーファスに目を向ける。「ゴーレムの一体は僕とファルサが受け持つよ。残りの一体を君たちでお願い」

「え? ちょっと探知師ダウザーなのに一人で――」

「分かった。お前がいると楽でいいな。頼りにしてるぞ」


 驚くメラニーをよそに、ルーファスは楽しそうに言う。


「ダンジョン限定だけどね」オーランは苦笑して言う。

「さぁ、準備はできたか?」


 メラニー以外の四人が頷く。四人はすでに背嚢を床に降ろし、各々の武器を構えていた。

 ルーファスはブロードソードを。ダガートはメイスを。ゼフィアは弓を構えている。そしてオーランは探知杖ダウジングロッドを構えていた。


「メラニー、まず俺たち三人に〝防御強化〟。次に俺とダガートに〝攻撃強化〟。の付与呪文エンチャントスペルを頼む。その後は後衛から攻撃呪文で援護してくれ」

「え、ええ……ってオーランには?」

「僕には必要ないよ」

「必要ないって……」

「いいから言われた通りにやりな。俺様とオーランなら大丈夫だ」


 その言葉にメラニーはムッとした顔をする。それからファルサに何か言いかけ、思い直したようにルーファスを見た。ルーファスは彼女に頷いて見せる。


魔力マナ魔力マナ。汝が担うは強き守り手。〈エクストラプロテクション〉」


 メラニーの口から独特の抑揚を持った言葉が紡がれる。ルーファス、ダガート、ゼフィアの三人の体が光に包まれる。その後別の呪文を唱えると、今度はルーファスとダガートの武器が光に包まれた。


「よい、いくぞ!」


 ルーファスの合図で、五人と一匹は駆け出した。

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