Chapter47. PMSCと蠣崎と小山田
天崎流馬はあっさりと捕まり、それに伴って、TLDという組織自体が、警察官の捜索によって、ほぼ壊滅に追い込まれ、逮捕者が数百人に上るという、前代未聞の大事件となり、ネットニュースで、記事が溢れた。
この結末を唯一、見越していたのは小山田かもしれない。
そう思った、蠣崎は、すでに何度目かわからないが、東京に戻った後、小山田だけを屋上に呼びつけた。
愛用の紙タバコをくわえ、中空に紫煙を吐きながら、蠣崎は静かに語り出す。
「で、天崎はどうなった?」
小山田は、非喫煙者であり、むしろ嫌煙者だったから、距離を取って、蠣崎と対峙する。
「もちろん裁判にかけられるでしょう。罪状は、話したように内乱罪とあなたへの殺人未遂罪、その他多数で、無期懲役か死刑でしょう」
それだけのことをやらかしたのだから、もちろん蠣崎に反対の意見はない。
ないのだが。
「何だか納得がいかないんだが」
そう思って、心情を吐露していた。
「まあ、社長が言いたいこともわかりますけどね。命を狙われ、腕を奪われたのに、復讐もできない、そう言いたいのでしょう?」
「復讐、というか。どうせなら銃撃戦でケリをつけたかったというか」
「ダメです」
「何故だ?」
「ここはアメリカじゃありません」
「PMSCが出来て、銃が撃たれてるのに?」
「そうです。日本は腐っても法治国家です。犯罪者は法の元できちんと裁かれないといけないんです」
「相変わらず、真面目くさってるな」
それが蠣崎の、小山田への「褒め言葉」なのか、それとも「呆れ」に似た感情なのか、わからないまま、小山田は微笑を浮かべていた。
「真面目で悪いですか? 不真面目な人が増えたから、この国は犯罪者が増えたんです」
「別に悪くはないが」
「あなたの仕事が減るとでも?」
「そうでもないと思うが」
「煮え切らないですね」
溜め息をつく小山田に、眼を向けた蠣崎が紫煙を吐き、言葉を繋ぐ。
「俺が言いたいのは、この国に『PMSCは必要か?』ってことだよ」
「必要です」
「何故、そう言いきれる?」
「犯罪者が増えた以上、治安を守る組織が必要になるからです。人口1000人当たりの警察官の数は、日本はたったの2人です。ちなみにトルコ、スペイン、キプロスなどは5人です。つまり、世界でも最も少ない部類に入ります」
「対処できないと?」
「そうです」
「しかし、PMSCは警察の代わりでも、お助けマンでもないぞ」
「わかってます」
今度は、蠣崎の方が訝しむ。彼女が何を言いたいのか、見当がつかないからだ。
「それでも、たとえお金目当てでも、組織犯罪を防ぐためには、あなたたちのような組織が必要なんです」
「必要悪だがな」
「それでもです」
力強く言葉を繰り返すように伝える小山田の瞳は、強い意志に満ちているように、蠣崎には思えた。
「で、お前さんはこの後、どうする? 警察に戻るか? 潜入任務は終わっただろ?」
小山田の主任務が、天崎を捕らえること。と、睨んでいた蠣崎が声をかける。
しかし、小山田は少しも動じることなく、強い言葉を発し、蠣崎を正面から見つめた。
「しばらくあなたの傍にいますよ」
「何故だ?」
「あなたがいつ、国家に対する反逆を試みるか、わかりませんからね」
「大袈裟だな。そんなことするわけないだろ? 何年いるつもりだよ」
「わかりません。ただ」
「ただ?」
小山田は、笑顔を浮かべた。その笑顔が、今の蠣崎にはとても眩しい物に見えるのだった。
「私が飽きるまでです。それまでは、あなたに付きまといます」
「ストーカーかよ」
まるで、好きな人につきまとう、ヤンデレかメンヘラにも見える小山田の態度と口調に、蠣崎は苦笑していた。
だが、そんな中でも、彼女の存在は、少しずつだが、蠣崎の中では大きくなっていた。
この後、この国がどうなって行き、どういう犯罪が発生するか。
それは誰にもわからない。
ただ、今はまだ小山田、そして仲間たちと共に、PMSC「カムイガーディアンズ」を運営していこうと思うのだった。
(完)
カムイガーディアンズ 秋山如雪 @josetsu
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