Section9. 3年前の出来事
Chapter44. 天崎への疑惑
結果的には、あれだけ派手に暴れたにも関わらず、渋谷での戦闘はあの後、拍子抜けするくらいにあっさりと終息していた。
理由は、もちろん、カムイガーディアンズの7人に加えて、ホワイトカトレアから20人程度が参加、その上、さらに陸上自衛隊から1個小隊規模の部隊が投入されたことで、相手のTLD側が簡単に崩れてしまい、多脚戦車は砲撃で破壊され、装甲車も半壊状態になっており、敵の1個小隊が退却しており、陸自を中心にそれを追う形になった。
それ以外の様子は、スマホから簡単に見ることが出来た。
今や、報道管制を敷いたとしても、ネットやSNSを通して、いくらでも真実を知ることが出来る時代だ。
誰か一般人が投稿した映像からでも判断が出来る。
結果的に、渋谷だけでなく、同時多発テロが起こった新宿と池袋でも陸上自衛隊と警察のSATや銃器対策部隊が抑止力となり、TLD側は敗北していた。
首都、東京を揺るがした一連のテロ事件は、ひとまず幕引きとなりつつあったが、肝心の天崎流馬の行方はまったくわからないままだった。
そんな事件があった翌日。
さすがに、この衝撃的な事件のせいで、ほとんど眠れなかった蠣崎は、眠い目をこすって、10時頃に市ヶ谷の防衛省に向かった。
防衛省。
そこは、陸上自衛隊だけでなく、すべての自衛隊を統括する、言わば「自衛隊の総元締め」であり、かつての旧日本軍で言えば「大本営」だ。
そこにある、陸上幕僚監部。
そこが、松山が指定した場所だった。
「着いたら、連絡しろ」
とだけ言われており、何時という指定すらなかった。
(何を考えてる)
この男の意図が全くわからないまま、蠣崎は、針の
入口の守衛室のようなところで、名前と訪問先、この場合は松山の名前を口にすると、守衛室のような場所にいた、男の顔つきが厳しいものに変わった。
そして、免許証の提示と、デジタル署名簿への記載を求められ、ようやく案内されることになった。
案内する男は、緊張した面持ちのまま、ほぼ無言で彼を案内。
やがて、大きな会議室のようなところに通される。
そこで、男がノックして入った後に続いて蠣崎も入ると。
中は、30畳以上はある大きな会議室で、半円形のテーブルが置かれ、それに面して緑色の陸自の制服を着た、初老の男たちが座っていた。
同時に、薄暗い部屋の壁側に投影されたスクリーンに、何かの資料が映し出されていた。
蠣崎は、すぐにわかった。
彼らは、陸自でもエリートの防衛大学校出身の幹部たち、つまり一佐以上で、恐らく陸将や陸将補もいるだろうし、その場には陸上幕僚長までいるだろうと思われた。
緊張感がまるで違うというか、そこだけ張り詰めたような空気感があった。
見ると、自衛隊時代でも下っ端で終わった蠣崎では、知る由もないようなメンツばかり。
唯一、松山一佐の姿だけがテーブルの端に見受けられた。
「君がカムイガーディアンズの蠣崎くんかね。かけたまえ」
初老、というより60歳近い男が、慇懃に告げ、彼は半円形テーブルの末席、松山一佐の隣の空席に座らされた。
「どういうことですか?」
こっそり小声で隣の松山に尋ねると、
「運が悪かったな。ちょうど会議中だ」
との回答が帰ってきた。
スクリーンに注目すると、TLDや天崎といった言葉が躍っていた。
「では、改めてになるが。せっかく蠣崎くんが来てくれたのだ。松山一佐。もう一度頼む」
指揮役というより、この場で一番、威厳がありそうな初老の男が声をかける。
「はい。では重ねてにはなりますが、ご説明致します」
そう区切って、彼、松山が立ち上がった。
そして、蠣崎にとっては、驚くべき一言が発せられたのだった。
「このTLDの天崎という男、過去に色々と不祥事を起こしており、陸自を除隊、一般的に申しますと、懲戒免職処分になっております」
蠣崎には全く知らない情報だった。
天崎は、彼の言を借りるなら「つまらなくなったから辞めた」と言っていたから、まさか懲戒免職処分だとは思っていなかったのだ。
「中でも、これは疑惑レベルですが、最も問題であり、今回の事件に繋がると思われる出来事があり、それにこの蠣崎が関連しています」
(何のことだ?)
と、蠣崎は一瞬、思ったのだが、
「3年前の北海道での陸自の演習時における爆発事故。あれが実は事故に見せかけた殺害未遂事件だという疑惑です。そして、奴の対象がこの蠣崎です」
「えっ」
さすがに思わず声が漏れていた、蠣崎。
松山は眉一つ動かさずに続ける。
「この件は、現在、警察とも協力して真相を追っており、まだ確定的な証拠は掴めていませんが、あの演習爆発事故については、不明な部分が多すぎており、その裏に奴が絡んでいるのではないか、というものです」
威厳のある、初老の男がそれを聞いて、静かに告げた。
「では、その件について、もう一度説明を頼みたい」
「かしこまりました」
松山によって、語られることになったのは、3年前の陸自の演習のことだった。
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