Chapter40. 襲撃

 2045年8月15日。


 ついにその日が来た。


 つまり、太平洋戦争の終戦からちょうど100年の節目に当たるこの日。


 誰もが予想していなかった、出来事が水面下でうごめいていた。

 式典は12時に始まるため、蠣崎はカムイガーディアンズのメンバーを、30分前の11時半には会場の皇居前広場に集め、指示を出していた。


 即ち、北東のトイレの上にセルゲイ。彼には、政府が用意した最新の光学迷彩を着させて、目立たないようにトイレの屋根の上に伏せさせた。

 この光学迷彩は、自衛隊でも採用されているらしく、最新のテクノロジーを使った、優秀なもので、カメレオンのように、周囲の色と溶け込むため、一見すると本当に見分けがつかない。


 よく目を凝らしてみると、違和感があり、わかる人にはわかるという代物ではあったが。


 北西には警察官やSATと共に、小山田。彼女は元々、警察官だからその方がいいという判断だ。


 南東にバンダリ。彼は、万能な戦士だから、あらゆる状況に対応が出来るだろうし、入口に近い重要な箇所を任せることにした。


 南西にシャンユエとエスコバー。ナイフ使いのシャンユエは、エスコバーの護衛も兼ねている。爆弾魔兼ハッカーというエスコバーだが、もちろんC4爆弾の他に、ノートパソコンを持たせてある。

 ハッキングされた時用の対策だ。


 そして、中央。首相が演説をする場所には。


 蠣崎は、JKこと金城と共にここにいた。


 彼女を傍に置くことを選んだ理由は。

「ねえねえ、社長さん。なんで私を選んだの?」

 としつこく彼女が聞くから、仕方がなく、蠣崎は答えていた。


「便利だからさ」

 と。


「ふーん」

 わかったような、わかってないような生返事を返すJKに対し、蠣崎は内心、


(便利、という意味には色々含まれている)

 と自ら思索を巡らせていた。


 仮に銃弾が飛んできても、抜群の戦闘能力を持つ彼女なら防ぐか、かわすことは出来るだろうし、もし接近戦を挑まれても、得意の刀による斬撃で、簡単に相手を処理してしまうだろう。


 護衛にしては、若すぎる彼女だが、「若さとは時として勢い」である。


 勢いだけで、どうにか出来てしまうのも若さの特権だと彼は思っていたし、その意味で、護衛に一番ふさわしいのは彼女だと思ったのだ。


 12時。

 演説が始まる。


 首相の千本木真琴は、だだっ広い皇居前広場の中央に置いた、台座の上に立って、マイクを持って演説を開始していた。


 大勢の観衆がその台座の周りに集まって、この歴史的な演説の場に立ち合うことになった。


 周囲360度には一般の警察官の他に、SAT、銃器対策部隊がそれぞれ、盾を構えて万全の警戒態勢を取っている。


 どこにも隙がない、完璧なまでの警備体制。


 そして、かつての平和ボケした日本では考えられない対策に思われた。


「あの凄惨な戦争が終わって、100年が経ちました。戦後の焼け野原から復興し、高度経済成長期、バブル期、失われた30年などを経て、我々日本人は平和な世界を勝ち取った、かに見えますが……」


 演説が続いている間、蠣崎は、盗聴を回避するため、トランシーバーで仲間と連絡を取り合う。


「異常ないか?」

 の問いかけに対し、


「異常なし」

 いずれも反応は同じだった。


 そのまま何事もなく、過ぎ去ると思われる雰囲気のまま、15分ほどが過ぎた。


 不意に、何かが首相の台座の前に投げ込まれた。


 それは円筒状の銀色の、鉄のカプセルのようなものだった。

 瞬間、


「伏せろ!」

 恐らく気づいたSATの一人だろうが、叫び声が上がった。


 そして。


―バン!―


 目の前が真っ白になっていた。

 爆発音は鳴っていたが、煙幕のようなもので、観衆に怪我人はいないだろう、と推測された。


 だが、当然、

「きゃあ!」

「うわっ!」

 という叫び声が辺り一面に響いていた。


「金城!」

 すぐ傍にいた彼女に声をかけると、彼女は心なしか、嬉しそうに、


「任せてー!」

 叫んだまま、白い靄のように立ち込めている霧の中へと消えていった。その手に、抜き身の日本刀を構えていた。


 白い煙が立ち込める中、事態は進展していく。

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