Chapter30. セルゲイの行方

 セルゲイが病室から消えた、という情報は看護師によってもたらされた。ある夜、彼の病室を訪れた彼女が見た物は、「もぬけの殻」になったベッドのみだったという。


 セルゲイは、個室に入れられていたため、同室の人間はいない。


 そして、そのことで、事態は急変する。

 看護師からの電話が切れた夜遅く。


「蠣崎さんよお。この件には関わるな、セルゲイにも伝えるな、と言ったはずだが」

 彼の携帯電話に、明らかに不満そうな、重苦しい声の権藤の声が響いていた。


「どういうことですか?」

「呆れた。管理してないのか? セルゲイが、源田を、いや海珠組を一人で襲った」


「何ですって? それで事態は?」

「今、警察が動いていて、両者を止めに入っている。すぐに来てくれ」

 さすがに驚いて、電話を切る。


 権藤は、ショートメールでを寄こしてきており、そのURLのリンクを開くと、地図が出てきた。


 場所は、川崎市川崎区浮島町にある、倉庫群の中の、一つの大きな倉庫のようだった。


 すぐに車を出すように手配し、部下を乗せる。ちなみに、彼の愛車のエルグランドは、爆発事故に巻き込まれて、現在修理中。


 仕方がないので、小山田が持っている、軽自動車、スズキのハスラーに便乗した。

 運転手は、小山田。助手席に蠣崎。後部座席にシャンユエ、JK、バンダリを乗せると、ぎりぎりになっていた。

 というより、軽自動車で5人乗りは、そもそも「違反」だが、そんなことを構っている余裕はない。

 しかも、エスコバーは横にデカいことを考慮して、今回は留守番にしていた。それだけで戦力ダウンになる。


 指定された場所に、首都高を乗り継いで向かう。

 その途上、


「誰がセルゲイに情報をバラしたんだ?」

 蠣崎が一人愚痴るように呟いて、頭を抱えていた。


「さあ」

「さすがに、私たちではないですね」

 小山田とシャンユエが答える。


 JKも、バンダリも、まったく心当たりはないようだった。


 倉庫についた時には、すでに時刻は深夜0時を回っていた。


 しかも、そこには物々しい警戒体勢が敷かれており、警視庁と神奈川県警のパトカーが多数、それにスーツを着た男たちが数人いた。


 その中には、権藤と永山の姿もあった。

 彼らに気づいて、蠣崎が車を降りて、声をかける。


「どうなってるんですか?」

 さすがに、権藤は面白くなさそうな、不満が表情に現れているような、仏頂面を浮かべていた。


「セルゲイの奴が、一人で攻め込んだらしくてな。相手側の無人ドローン攻撃機を多数破壊し、海珠組にも犠牲者が出た」

 彼によると、セルゲイがここに一人で現れたのは、2時間ほど前。


 どこで知ったかは知らないが、ここに「源田」という仇敵、妻の敵がいることを知ったセルゲイは、静かながらも、激しい怒りの炎を燃やしていたのだろう。


 無人ドローン攻撃機、RQ-1プレデターで守られていた、この倉庫に襲撃をかけ、すべてのドローン兵器を狙撃で破壊、さらに海珠組の残存構成員数名を負傷に追い込んだという。


 現在、セルゲイは警察によって身柄を拘束されており、一方の海珠組、及び源田一派にも警察が介入して事情聴取中だという。


「セルゲイはどうなるのですか?」

 社長として、部下を預かる以上、蠣崎にはそれこそが一番大切な事柄だが、永山は渋い表情で返していた。


「怨恨があるとはいえ、いきなり襲撃しましたからね。何がしかの罪は背負わないといけないかと」

 彼らにとっては、貴重な戦力の減少につながってしまう。それが今の蠣崎の懸念事項になる。


「セルゲイと話せますか?」

 蠣崎が、藁にも縋る思いで、権藤に訴えた。


 彼は、相変わらず、いわおのように、固く、ごつごつした顔面を見せていたが、しばらく考え込んでいた後、


「少し待ってろ」

 とだけ言い残して、どこかへ立ち去ってしまうのだった。

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