Chapter23. 抗争の行方

 2日後の正午頃。

 豊島区西池袋1丁目。JR池袋駅北口付近には、手に短銃や青龍刀を持った、中国人が大挙して押し寄せ、その先にバリケードを作った警察官に守られるように、同じく武装している日本人グループと対峙した。


 パトカーからの拡声器の声と、中国人が応じる早口の声が、応酬を繰り返していた。


「退きなさい! 銃刀法違反で逮捕されたいのか!」

「関係ない! 日本人を叩き潰す!」


 一触即発の空気が、現場に緊迫した空気感を運んでくる中、蠣崎は部下たちを率いて、警察官のパトカーの後ろにいた。


 傍らには、秘書の小山田のほか、シャンユエ、バンダリ、金城がいたが、セルゲイとエスコバーは離れた位置にいて、それぞれが相手の中国人グループを「狙える」位置に待機していた。


 警察官が拡声器から盛んに「自制」を求める中、中国人たちは盛んに怒りの声を、日本語で挙げていた。


「お前たちは、我らのメンツを潰した!」

「そいつら、殺す!」


 だが、そうした隣国の知人たちに対し、温厚なはずの日本人もまたしびれを切らしていた。


「なんだ、てめえら! そもそもてめえらが、俺たちの仲間を殺したんだろうが!」

「戦争だ、こらぁ! やったるわ!」

 その声を聞いて、蠣崎はすぐにピンときた。


(ヤクザか)

 そう。恐らくはどこかのヤクザ組織がバックとして、日本人グループに力を貸している。


 同時に、恐らく中国人グループにも、現地のヤクザがいる。つまり、所詮は「代理戦争」だ。


 一発の乾いた銃声が響いた。

 その瞬間、前線付近にいた日本人の胸から鮮血が飛び散り、彼が地面にうつ伏せに倒れていた。


 そこからは、一気に「戦争」の様相を呈していた。


 中国人が銃を撃ち、あるいは青龍刀で斬りかかり、日本人を襲う。

 対して、日本人の警官が彼らを守りながら、


「確保!」

「逮捕だ!」

 と叫びながら、拳銃を構える。


 こうなると、止めようがない。

 蠣崎は、部下たちに攻撃を命じていた。


 だが、ここで意外な人物が「待った」をかけた。


 スラっとした長身の美女、シャンユエだった。

「待って下さい、社長」

「何だ、シャンユエ。今さらやめられないぞ」


「私が彼らを説得します」

「無理だ」

 即座に否定する蠣崎。彼には一度「火」がついた状態の中国人を、いくら同胞とはいえ彼女一人の力で止められるとは到底思えなかったから、それも当然の態度だった。


「無理かどうかはやってみないとわかりません」

 言うなり、彼女は無防備と思われる状態で、前に出ていた。


「よせ! 撃たれるぞ!」

 咄嗟に叫ぶ蠣崎を無視するかのように、シャンユエは一人、銃撃戦の最中に飛び出していた。


 だが。


―キン!―


 甲高い金属音が響き、シャンユエは自分に向かってきた銃弾を、ナイフで弾いていた。


「化け物か、あいつは」

 さすがに驚愕する蠣崎に対し、今度もまた意外なところから声がかかった。


「社長さん。あの人を助けてくるね」

 JKこと金城だった。


 一方的に告げた後、彼女は、金城の元に駆け寄り、彼女をかばうように銃弾から彼女を守るような動きに入る。


 その間、盛んに中国語で同胞たちに話しかけるシャンユエ。


 言葉はわからないが、早口の中国語で、大きな声を上げ、同胞たちを説得している様子なのはわかった。


 だが。


 当然の帰結と言えるだろう。

 何やら、早口で怒声を発した中国人によって、一喝され、銃で撃たれていた。


 もっとも、それすらも、金城の日本刀が弾いていたが。

 どちらも「化け物」クラスの達人だった。


 そんな中、意気消沈したシャンユエが、

「すみません~」

 と、肩を落として戻ってきたが、蠣崎にはもちろん、予想していた範疇の出来事だった。もっとも、彼女が無傷なことまでは想像していなかったが。


「無茶するな、シャンユエ」

「さすが社長。お優しいですね~」

 コロコロと表情を変えて、今度はしなだれるように、蠣崎に媚びるシャンユエ。


 それに対し、蠣崎が持っていた無線に、英語で知らせが届いたのはその時だった。


「I'll do it. Is it OK,Boss?」

 英語が苦手な蠣崎でもわかるような、単純な「了承」を求める合図。


「Sure. Do it.」

 蠣崎が拙くも、短い一言で返す。


 瞬間。


―ドーン!―

―バーン!―


 中国人グループの背後から何かが爆発するような破裂音が鳴り響き、彼らの何人かが吹き飛び、黒煙が上がっていた。


 事態は意外な展開を見せる。

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