Chapter16. 殺し合いの行方
いよいよ、戦いを翌日に控えた3月10日、金曜日。
「銃を調達した」
社長の蠣崎が、社員を集めて、オフィスの床に広げていたのは、物騒な「物」だった。
FN
いずれも、欧米中心に使われている、アサルトライフルの類だった。
FN SCARは、ベルギーのアサルトライフルで、口径5.56mmと7.62mmがあり、全長は種類によって違う。重量も種類によって違うが、概ね3000g~3700gくらい。発射速度は1分間に550~600発。元々、アメリカの特殊作戦軍(SOCOM)向けに開発されたものだ。
ステアーAUG A1は、オーストリアのアサルトライフルで、口径5.56mm。全長は790mm、重量は3600g、発射速度は1分間に680~850発。オーストリア軍向けに開発されたものだ。
H&K G36KVは、ドイツのアサルトライフルで、口径5.56mm。全長は615mm、重量は3000g、発射速度は1分間に850発。なお、G36KVは、輸出用モデルと言われている。G36はドイツ連邦軍に採用されている。
蠣崎としては、各自の拳銃だけに頼るより、迫りくる「戦場」に備えて、これくらいの銃器が必要だと考えていた。
また、思わぬことで、予想外に前金が手に入ったことで、それぞれ1挺ずつ、武器商人から購入していた。
この短期間で揃えられたのは、彼の「ツテ」に優秀な業者がいたからだったのと、実はこのことが始まる前に、注文だけはしていたからだった。
金が揃ったら、すぐに届けてくれ、と頼んでいたのだった。
「おお。いい武器ですね」
「Yes. Fantastic!」
「腕が鳴ります」
香月、エスコバー、バンダリが目を輝かす中、セルゲイは興味を示さず、関水は複雑そうな表情を浮かべていた。
アサルトカービン銃のコルトM733を持っているエスコバーを除き、FN SCARは香月が、ステアーAUG A1は関水が、H&K G36KVはバンダリが使うことになった。
片腕が、不自由な義手の蠣崎は、拳銃のみで、狙撃を中心とするセルゲイは使わないことになった。
相手は、恐らく「尋常ではない」と蠣崎は予想していた。
彼の知る、美希という女は、「手を抜かない」奴だからだ。自衛隊時代から付き合っていたが、こと戦いに関しては、彼女は「優秀」だった。
飄々として、掴めないところがあるが、彼女が「強力な助っ人」と言ったからには、こちらもそれ相応の準備をする必要があった。
その意味で、「相手にしたくない」相手ではあった。
そして、その「戦場」がやって来る。
3月11日、土曜日。かつて「東日本大震災」という悲劇があったこの日。まさかこの平和な日本で、恐ろしい戦闘が起きるとは、誰も予想していなかったかもしれない。
現場は、埼玉県入間市。
1950年代のアメリカをイメージした、米国風のレトロな建物が建ち並ぶ、ジョンソンタウンと呼ばれる場所がある。
一種の観光地にもなっているが。
そこに武装した男たちが集結していた。
早朝6時。日の出時刻に近く、辺りが薄っすらと明るくなり始めた頃。
閑静な住宅街で、付近には朝のランニングや犬の散歩をする姿が見られる中、屈強な男たちが続々と揃ってきた。
人数にして、山際組が約100人、海珠組が約80人。
しかも、暴力団関係の拳銃と言えば、昔から旧ソ連の「トカレフ」が定番と言われているにも関わらず、彼らの装備は異様だった。
大型拳銃とも言える、アメリカ製のコルト・ガバメントやデザートイーグルが目立ち、さらにミニミ軽機関銃や、対戦車グレネードのRPGまで持っている者もいる上、日本刀や大型のナイフを装備している者たちまでいる。
(戦争でも始める気か?)
さすがに、これが日本とは思えないほどの重装備に、蠣崎は戦慄を覚えた。
だが、相方とも言える関水は緊張した面持ちだったが、シャンユエは実に楽しそうに目を細めており、それが対照的だった。
一触即発の睨み合いが始まるが、戦闘はなかなか始まらなかった。
ふと、気になった蠣崎は辺りを見回す。ホワイトカトレアの社長の北大路美希の姿がどこかにあると思っていたが、彼女の姿は見当たらなかったのが、不思議だった。
彼女が言っていた「強力な助っ人」の正体が気になるが、相手方には数人のPMSCらしき人物が銃を構えているのみ。
(これは、何かある)
さすがに疑いつつも、成り行きを見守る。
戦闘は、不意に轟いた一発の銃声から始まった。
極度の緊張感に堪えられなくなった、山際組の若い暴力団員の一人が発砲。
そこからは、血で血を洗う、現代とは思えない「戦場」が現出した。
銃声に次ぐ銃声。剣戟に次ぐ剣戟。辺り一面、戦場のように銃弾が飛び交い、甲高い音が鳴り響き、さらには綺麗な白壁を持つ、このジョンソンタウンの住宅にも弾痕がついて行く。
住人は、逃げようにも逃げられない状況に陥る。
そんな中、蠣崎を始めとしたPMSCも、銃撃を繰り返し、相手方を倒していくが。
さすがに、この騒動に住人が連絡したのか。数台のパトカーが接近してきて、警官が降り立ち、
「手を上げろ!」
とそれぞれ拳銃を構えた。
腐敗したとはいえ、日本の警察官は真面目だ。
―ドーンッ!―
蠣崎は、信じられない物を見るような気持ちだった。
まるで、ハリウッドのアクション映画か、戦争映画かというくらい、見事なまでにパトカーが吹き飛んでいた。
そこに当たっていたのは、暴力団員が放った、対戦車グレネード、RPGだ。
しかも、次々の命中し、炎上し、警察官の死傷者が続出。
現代日本では考えられないくらいの、修羅場が出きていた。
また、蠣崎は、ここでようやく「彼の」真実の一端を見ることになる。爆弾魔のエスコバーだ。
一見すると、ただの太ったおじさん。
その彼が、戦場のどこにいるのかすらわかっていなかったが、「アイテム」が彼の居場所を示してくれた。
―ドン! ドン!―
複数回の爆発が発生し、警察官らを撃っていたRPGを持ったヤクザが吹き飛んでおり、悲鳴が上がっていた。
(C4爆弾か。いつの間に……)
よく見ると、煙が晴れた、はるか向こう側。
建物の陰に、大きな図体が立っており、その人影がニヤけていた。
間違いなくエスコバーであり、彼の仕業だった。
恐らくC4を投げ込み、起爆装置を作動したのだろう。C4は衝撃を受けても、火に入れても起爆しないくらいに安全なプラスチック爆弾だが、その扱いに長けていることを証明するように、彼は持ち込んだC4で、文字通り海珠組のヤクザを「清掃」していた。
シャンユエの言うように、彼は「プロ」であり、恐るべき男だった。
そして、蠣崎はさらに、戦場に「信じられない物」を見る。いや、ある意味では、それは彼の「予想通り」の人物だった。
日本刀の鮮やかな煌きが朝日に照らされ、目の端に入った。
と、思った瞬間。
山際組の男たちが3人も一斉に倒れていた。
一応、自衛隊時代に剣道もやっていた蠣崎は、凝視して、よくわかった。それが達人による「太刀筋」だと。
そいつは、凄まじい速度で走ってきて、一人目を
驚くべき瞬発力と、足の運びだった。
そいつは、制服を着ていた。セーラー服を着て、髪の毛をポニーテールにまとめていた。小麦色の健康的な肌に、彫の深い欧米人の血が混じった少女。
「金城」
そう。あのJKこと金城ジュリアだった。
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