Section2. 近未来の日本
Chapter8. まともな仕事
最初に入社したのが、正体不明・年齢不詳の女、関水葵。
2番目が、無口で、過去の経歴がイマイチ不明なスナイパー、ロシア人のセルゲイ。
3番目が、「好きになった男を殺す」ことに快感を覚える、変態の中国人、李香月。
ようやく4人になったが、それは傍から見れば「まともな」人材ではなかった。
だが、それでも「形」になり始めたことで、社長の蠣崎は、それなりに「満足」していた。
(欲を言えば、もう少し人員が欲しいが)
そう思いつつも、ないものねだりをしても仕方がない。
人材はいずれ確保するとして、蠣崎はネット上に、求人とは別に、「仕事」の依頼を受けるという記事を上げていた。
―あなたの危険を守ります。警護・護衛のご用命はカムイガーディアンズへ―
これだけなら、ただの「警備」文句であり、ボディーガードと変わらない。
ところが、最初の「PMSC」とも言えないような、ストーカー撃退というショボい業務とは打って変わって、次はようやくまともそうな依頼が舞い込んできた。
依頼人は、JKの時と同じように、メールで送ってくるかと思いきや。
携帯電話に直接掛けてきた。一応、蠣崎の社用携帯の番号は載せてある。つまり、緊急時はこちらの方が早いと。
相手は、
―銀行の現金輸送を委託されて担当する、警備会社―
と名乗った。
つまり、何でも「上から委託」して「子請け」、あるいは「孫請け」が当たり前の、外注全盛の、日本においては、些細なことでも、外の業者に依頼(外注)をする。
もっとも、銀行が扱う現金輸送という、極めて機密性が高く、安全が重視される仕事なら、外部の警備専門会社に依頼しても不思議ではない。
だが、蠣崎は電話口で、話を聞きながら、疑問に思った。
「あなたたちは、警備会社の人間ですよね? 自前で、警備できないんですか?」
当然の疑問を投げかけていたが。
電話口の男は、切羽詰まっている様子で、
「これからそちらに向かいますので、詳しい話は事務所でお話します」
とだけ言って、電話を切ってしまった。
その時点で、嫌な予感がしたのか、最近は秘書のように蠣崎に付きまとうように動いている、関水が口を開いた。
「社長。私、嫌な予感がします」
「何がだ?」
「警備会社でも扱えないような案件ということですよね。危険です」
しかし、それを聞いて、蠣崎は自分でも不思議なくらいに、気分が高揚して、自然と笑みを浮かべていた。
「それこそ、俺たちには打ってつけだろう」
そう告げた後、セルゲイと李に、それぞれ「武器の準備をしておけ」と命じていた。
なお、李香月は、6kh3のナイフ以外に、
ドイツとスイスが製造国で、口径9mm、全長180mm、重量865g、9mmパラペラム弾を使用するショートリコイル式の銃で、装弾数は15発。主にアメリカで使用されている銃を、中国人の彼女が何故持っているのかは謎だったが。
ついでに、彼女は、「李」と呼ばれることを嫌い、社長の蠣崎には「シャンユエ」と名前で呼ぶことを強制していた。
ともかく、予告通り、電話をした男は、もう一人の社員を連れて、1時間後には、会社の建物に現れた。
車の音がして、窓のブラインドから外を覗いた蠣崎は、眼下の道路沿いに、6人乗りくらいの白いバンが停まっているのを確認した。
現れた男たちは、警備会社の社員と名乗ったが。
2人のうち、2人ともが、屈強な男のようには見えなかった。
言い換えると、「普通」のサラリーマンのような社員に見える。
一応、警備会社の人間らしく、警察の制服に似たような、紺色の服に、帽子をかぶってはいたが、特段、筋肉質でも、強そうにも見えなかった。
ひとまず、ソファーに座らせて、話を聞くことにした。
一人は、20代くらいの若い社員で、スポーツ刈の爽やかそうな青年。もう一人は、30代後半から40代前半くらいの、少しがっしりした体格の男。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
そう言って、頭を下げた壮年の男の声に聞き覚えがあった、蠣崎は、こちらが電話をしてきた男と確信する。
「それでは、具体的な話を。警備会社なのに、何故ウチに」
まるで、秘書か付き人のように、蠣崎に従うようになっていた、関水がトレイに、湯気が立った、暖かいお茶を湯呑みに乗せて持ってきて、テーブルの上に置く。
「我々では、残念ながら手に負えないからです」
「どういうことですか?」
具体的な話が、男の口から語られる。
それは、かつての「平和な日本」を覆す、衝撃の事実であった。
男の会社は、某有名メガバンクから不定期に、現金輸送を頼まれるという。その為、それなりの装備を持って、人目がつかず、交通量も少ない深夜にこっそり、銀行から指定場所へ移動するという。
ところが。
先日、約1000万円を持って、銀行を出て、深夜の街を走っている時に、突然、現れた武装グループに襲撃されたという。
その時、武器を構えた男たちに取り囲まれた上に、車ごと襲撃され、現金1000万円は奪われたという。
襲撃してきたのは、バンに乗った、覆面の3人の男たちだったという。
「バカな。そんなのニュースにもなってないじゃないですか」
朝は、ダルいこともありニュースをあまり見ない蠣崎でも、夕方のニュースはチェックして、世の中の動きを絶えず探っている。
しかし、そんなニュースは一切なかったと記憶している。
「銀行側から、
呆れて、大きな溜め息を突いていたのは、もちろん蠣崎だった。
この「日本」という国の一番悪い部分だからだ。「臭い物に蓋をする」。「上が責任を取らない」。「見て見ぬふりする」。そういうことばかりしているから、結果的に、この国は「腐った」のだ、とすら内心では思っていた。
「バカげた話ですね。それで、あなたたちは、怪我はなかったのですか?」
「ええ。手を上げて、警棒を渡し、現金も引き渡しましたから」
それを耳にして、今度は、すぐ近くにいた関水から溜め息が漏れていた。
「警備会社なのに、抵抗しなかったんですか?」
まあ、当然の質問だろう、と蠣崎も思う。
ところが、彼らは、というより「日本国」が彼らの想像以上に「腐っていた」ことが判明する。
「だって、あいつら銃を持ってたんすよ。俺らは、せいぜい警棒しかないし、あんなことで死にたくないっす」
若い男の方が、切実に、思い出すように真剣な瞳を向けて主張したが、その割には、言っていることは極めて情けない。
「使命感というのは、なかったんですか?」
蠣崎も、わかってはいるが、それでも尋ねてみたくなったから口にしたが。
「そりゃ、ありますけど、本物の銃ですからね。銃に対する訓練は受けてませんし、しかもその銃、普通じゃなかったんです」
壮年の男が主張する。
「普通じゃない、とは?」
「マシンガンです」
「マシンガン? どんな形状ですか?」
蠣崎は、己の頭の中にある知識をフル動員して、想像を働かせるために、質問を投げかけた。
「そうですね。少し古くて、重そうで……」
壮年の男がそう言って、中空を見つめ、思い出したように、
「そうだ。昔、見た第二次世界大戦の戦争映画に出てきました」
それを聞いて、蠣崎の頭には、一つの銃器が浮かんできていた。
(もしやM2か)
ブローニングM2重機関銃。
元々、第二次世界大戦中のアメリカで開発されたが、その信頼性と性能の高さから、今でも世界中の軍隊で使われている、機関銃だ。
このM2のストッピングパワーや信頼性は伝説的ですらあり、口径が0.50インチであることから別名“キャリバー50” (Caliber .50) や“フィフティーキャル” (.50 Cal) と呼ばれる。
またM2を読み換えたマ・デュース(Ma Deuce)というあだ名もある。
M2は戦車や装甲車、トラックやジープなどの車載用銃架、地上戦闘用の三脚架、対空用の高架三脚銃架、連装から、さらには四連装の動力付き対空銃架、艦船用対空銃架といった様々な銃架に搭載されて用いられてきた。
つまり、どのような状況でも、組み立てて射撃可能で、非常に汎用性が高い。
(恐らく、襲ってきた連中は、車載してたな。と、するとバンか)
さすがに、いくらなんでも外から丸見えの状態で、この重機関銃を使うとは考えにくい。
つまり、バンの後部座席に三脚架で固定して、後部ハッチを開き、威嚇に使ったか。
彼らの証言によると、威嚇のみで「銃撃」はされなかったという。
(しかし、物騒な世の中になったな。もっとも、だからこそ俺たちが必要なんだが)
改めて、思い直してから、蠣崎は、彼らに具体的なことを突っ込んで聞き始めた。
つまりは、依頼内容についてだ。今回は、何をして欲しいか、と。
それ次第で、報酬も変わる。
そして、彼らの口から聞いたのは、驚くべき「計画」だった。
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