#04 思いがけない結末

 収監される時に預け、出所後に受け取った茶色いコートが、雪で、しっとりと濡れそぼっていた。まるで返り血を浴びたかのよう。僕は研究所の部屋という部屋を確認した。しかし、やつはいなかった。タイムマシンは……、そこに在るのに、だ。


 おかしいとは思ったが、……まあ、次は自宅だと思い直す。


 ただし、


 怒りと憎しみに全身全霊を注ぎ込んでいたからか疲れていた。だから、その前に、少しだけ休もうと思った。肩すかしを喰らって余計に疲れたからこそだ。コートのままソファーへと身を預けた。ボフッという音を立てて背もたれが身を包む。


 まあ、時間はたっぷりある。やつを後悔させる為の時間は。


 のち、ごく自然にガラステーブルへと視線がゆく。


 湯飲みを置いたそこへと。


 不思議な事に、そこには。


 お茶の時間も止まってしまっていたかのようカビた湯飲みが堂々と鎮座していた。


 誰も、ここに来ていない?


 そんなはずはない。なぜなら、やつは……、僕を。


 その時、


 ある思いが浮かんだ。そうだ。電話をかけてやろう。何食わぬ顔で、やつを呼び出せばいい。そして殺す。無論、どんな反応をするのかも楽しみだ。余興だ。と。ただ、逃げ出すかもしれない。いや、むしろ逃げ出した方が面白いか……、ふふふ。


 追い詰めてやる。……じわりじわりとな。


 そう思いつくと静かに電話を手に取った。


 出所したんだが、……今から会えないか?


 とでも言ってやろうか。僕の声を聞き慌てふためくやつが手に取るように分かる。


 机の引き出しからカッターナイフを取り出し懐に忍ばせる。


 ウフフ。


 そしてボタンを順番に押す。忘れたくても忘れられないやつの自宅の番号を……。


 しかし、電話をしたあとで思いがけない結末へと不時着してしまい、僕は呆ける。


 脱力してカビた湯飲みを洗い場へ。カッターナイフを見つめて刃を出して放り出す。床に転がるナイフ。またソファーへと身を預ける。その後、見る気もないテレビのスイッチを入れる。下らないCMを何分か見たあとテレビのスイッチを切る。


 そののち、ガラステーブルに頬杖をつく。


 一体、どうするべきなのか、決めかねる。


 両手を後ろ頭に回し……。

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