第42話 勇者ゼクトのやり直し⑧ ぶざまでも良い!
今日は久々に狩りに来ている。
狙いは竜種だ。
ワイバーンに地竜…いつもこの辺りを狩っている。
お金はもう使いきれない程ある…だが俺はしっかりと仕事はするようにしている。
俺の父さん、セクトールは働かない人間だった。
逆に母さんの静子は働き者だった。
俺が働かない姿はルナには見せない方が良いだろう。
だから、俺は週に数回狩りを必ずする。
そうしないとルナの教育に悪いからな。
帝都の中にルナを知らない人間は殆ど居ない。
地道に、スラム街の炊き出しと治療を続けた結果…ルナは人気者になった。
もう一人にしても問題ない。
最初の頃は、こっそり後をつけたが…問題は無かった。
「ルナちゃん買い物かい、偉いね、これサービスだ」
「ルナお姉ちゃんガンバっ」
ルナが世間知らずな事につけ込む人間は居ない。
買い物をさせればよくサービスを貰ってくる。
こうなれば、ルナの為にも少し自由にさせた方が良い。
社会勉強を兼ねて一人の時間を作るのにも俺が狩りに出るのは丁度良い。
暫くして街での生活が出来るようになったら…一から冒険者の仕事でも教えてみるか…
絵本でも買って文字を教えるのも良いかもな…
まだまだ、やる事は多いな…多分ゴールは永遠に来ないのかも知れないな。
◆◆◆
竜種…それを狩れる存在は少ないから、狩り放題だ。
オークやオーガ辺りだとまだ他の冒険者と取り合いになるが竜種辺りはもうA級にすら狩れない。
だから、狩場の競合は無い。
とはいえ、俺に狩れるのは竜種の中で地竜とワイバーン…そこから上は流石に怖くて手を出さない。
今日は体の調子が良い…運よく単独でいる奴を見つけられたから、ワイバーンと地竜それぞれ1体ずつ狩った。
これで俺の収納袋は一杯だ…これで充分だ。
「随分手際よく竜を狩るもんだな!」
「まぁな、俺にとっては竜だってこんな物だ」
なんだ、この黒ずくめの奴。
「ほう…そうか『竜がこんなもの』だと、下位の竜を倒して満足している奴が良く言う」
なんだ此奴…俺を馬鹿にしているのか?
「お前、俺が誰か知らないのか?」
「あいにく世間に疎くてな」
「そうか、俺はS級冒険者ゼクトだ…余り絡んでくるな」
昔の俺なら殴っている。
だが…こんな事でいちいち喧嘩する必要は無い。
「そうか…少しは強いのか? まずは人の身でありながら下位とはいえ竜を狩った事は褒めてやる…だがお前は竜という物を舐めすぎだ…わが種族を『こんな物』扱い高くつくぞ」
此奴俺が『元勇者』と言うのを知らないのか?
セレスでもない限り今の俺より強い奴なんていない。
「高くつくとはどういう事だ? 『わが種族』だと自分が竜にでもなった気になっているのか? だが竜でも俺には敵わない…俺は元勇者だ」
マジで此奴俺に喧嘩売っているのか。
仕方ない、手加減して終わらせるか。
「ならもう良い、決闘だ!」
「解ったよ、仕方ねーな、掛かってきな! 手加減はして…うえぁごばぁぁぁぁっ」
なんだ、今此奴の動きが見えなかった。
たかが軽く手を振っただけで俺がぶっ飛ばされた。
可笑しい…リダより速い…
腹を軽く殴られただけなのに吐きそうだ。
「おい、まさかこれで終わりとか言わねーよな」
「いや、終わりで良い。お前、いや貴方は凄く強い、俺の負けだ…この通り許してくれ」
此奴…強い。
ちゃんと目を見て強さを計れば…解る。
マモン並みかも知れない。
俺は土下座をして心から詫びた。
「どうした? いきなり土下座? もう少しやれるだろう!」
もしかしたら此奴にも通じるかも知れない技はある。
勇者だけが使える奥義『光の翼』
マモンに負けた俺が鍛え上げ身に着けた奥義。
これなら勝てるかも知れない。
だが、これが通じなかったら終わりだ。
此奴がマモンでも無い限り…これで勝てる。
だが…通じなかったら。
「確かに技はある、だが、それを使っても勝てる気がしない、頼むから許してくれ」
「やれる事があるのに、命乞いとは情けない奴だ」
「…」
「何も言わずだんまりか? 下位とはいえ竜を狩れる様な人間が土下座して命乞い…本当に情けない奴だ」
「…ああっ、俺は…情けない奴…それで良い…それで」
「ああっ、やめだやめ! これじゃ俺がただ弱い者虐めしているように見えるじゃねーか、少しは根性出せねーのかよ、男だろうが!」
「無理だ…」
これで良い、俺には守る相手がいる。
俺が此処で死んだら、ルナが生きていけない。
どんなに無様でも死ぬ訳にはいかない。
「そうか? なら『竜』を馬鹿にした事を詫びて貰おうか! そして二度と竜を狩らぬと約束をするのなら許してやろう」
「竜を馬鹿にして済まなかった!二度と狩らない!約束する、これで良いか?」
なんだ、此奴、俺に興味が無くなったのか?
「そうか、それで良い…それじゃあな」
そう言うとその男は大きな竜となり羽を出して飛んで行った。
あの羽『竜』なのか?
戦わなくて良かった。
もし、戦っていたら、多分俺は死んでいたな。
今の俺には守るべき存在がいる。
意地? 名誉…そんな物より命が大事だ。
もし、俺がもう一度命を懸けるとするなら、それは『大切な者』の為だけで良い。
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