第43話 勇者ゼクトのやり直し⑨ やってきたマリン
トントン。
朝から煩いな。
トントン
仕方が無い出るか。
「なんでだよ…」
「ゼクト様、ハァハァ来ちゃいました」
来ちゃいましたじゃねーよ。
なんで来るんだよ!
可笑しいな、俺はしっかりと断った筈だ。
「私は近衛騎士団リチャードです! 姫様をお届けに参りました」
「ゼクト…何かあったの?」
「いやルナ、問題ない」
「そう、なら良い…」
「そうか?じゃあな!」
見間違いだドアを閉めよう。
「じゃあな!じゃありません、ドアを閉めないで下さい!マリン王女を連れて参りました!」
「これはどういう事だ!なんで連れてきたんだ?この間しっかり婚約なら破棄になった筈だよな!」
「破棄になんてなっていませんよ? ゼクト様はこうおっしゃいました『ならその王冠を投げ捨てて、俺と一緒に冒険者やりますか? そして年老いたら一緒に畑を耕してくれますか?』とあれは、王冠を投げ捨てて一緒に冒険者をするなら受け入れる、畑を私が一緒に耕す生活をすれば、年老いても一緒に居て下さる。そういう事ですよね! あれは破棄ではなく婚約の条件です! こちらは条件を飲みます!ゼクト様も約束は守るべきです!」
マジか?
普通に考えれば、あれは遠まわしに断ったって解るだろう?
王女が王冠を捨てるかよ。
「お前、その意味解って言っているのか?王女じゃ無くなるという事だぞ!」
「ええっ解っております、私これでも短剣も使えますし、魔法も少し使えます…冒険者としても頑張れますよ!」
良くザンマルク四世が許したな。
いや、流石にそれは無いか?
「ザンマルク四世、国王から許しは得ているんだろうな?」
普通に考えたら許す訳ないだろ。
娘が王族じゃ無くなるんだぞ。
「はい、それなら間違いなく許可が出ております、ご安心を、それじゃ姫様…ガンバッです!これにて私達は失礼いたします」
許可が出ているのか…
「貴方達も達者で!」
「おいっ!」
「「「「「はっ、それではこれで失礼します」」」」」
「おい、まさか本当に置いて行くのか? 王女だぞ?」
騎士たちからの返事は無かった。
「もう、王女じゃありません、只のマリンです! まさか王権を手放して此処迄来た、私を放りだしたり、見捨てたりしませんよね? ゼクト様!」
マリン王女って、こんなだっけ?
もっと線の細い華奢で放っておけないようなタイプだった筈だ。
だが、確かに俺は『言っていた』
また俺は思慮が足らなかった。
いつもそうだ…
いつも、余計な事をしてドツボに嵌まる。
だが、此処迄来たら断れないな。
王女の地位を捨ててまで俺の所に来てくれたんだ。
『帰れ』とは言えないな。
「仕方が無いな、だが俺はマリンの事を殆ど知らない、マリンだって一緒の筈だ、だから一緒に暮らす事から始めよう!勿論、お互いが好きになるまでは俺は手は出さないから安心してくれ」
「ですが、私は、もうゼクト様を」
「そこから先は、一緒に暮らして本当に好きになってくれてからだ!」
「そうですか…」
「ああっ、ルナ同居人が増えたぞー-っ」
「同居人? 同居人ってなに?」
「一緒に暮らす人間の事だ、この子マリンも今日から一緒に暮らすんだ、先輩としてルナが色々教えてやってくれ」
「マリン、此奴はルナだ、仲良くしてやってくれ」
「あの、その子も一緒に暮らすのですか? もしかして冒険者仲間って奴ですか?」
「いいや、ルナはルナだな!パーティ登録はするがルナと同じで今はまだ戦わないで良いから、普通の生活に慣れてくれ」
彼奴が怖いから、もう竜は狩れない。
暫くは俺ももう狩りはしないつもりだから、時間はたっぷりある。
「普通の生活ですか?」
「どうせ王女だから家事なんて出来ないだろう?」
「すみません『した事がありません』」
普通に考えてそうだよな。
しかし、ザンマルク四世も帝国で暮らす俺の所にマリンを寄越すなんて凄い事をするな。
「マリンが来たし、目が覚めちまった、折角だから今日はハンバーグを作ってやるよ!」
「ハンバーグ、ハンバーグ、ハンバーグ…ゼクトありがとう」
ルナはハンバーグも好きだからな。
「そうと決まればマリンも座って待っていてくれ、そうだな、出来るまでルナの話し相手を頼むよ」
「あの、ゼクト様がお食事を作られるのですか?」
「仕方ないだろう? マリンもルナも家事が出来ないんだからな!出来る俺がやるしかないだろう?」
「ルナは料理出来ない…」
「すみません」
王女に料理をしろって言うのは酷な話だ。
「良いって事よ、それじゃ暫く待っていてくれ」
ハァ~思わずため息が出る。
女が二人も居るのに、料理一つ出来ない。
これじゃまるでセレス見たいじゃないか?
まぁ美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐はあるけどな。
きっと彼奴も…いや違うな俺達は此奴らみたいに可愛げが無かった。
良く作ってくれていたな…今思えば『美味しい』『ありがとう』ちゃんと伝えるべきだった。
もし会う事があったら素直に言ってやるか。
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