25 魔族と契約

 賢帝ライオットと魔帝ラッカの戦いが終わった。ラッカの死を見届けたライオットが声を張った。


「いつまでぼけっとしている。ハンス!」


 ライオットがリルを救い出すようにと指示を出した。それに従い直ぐ様俺は、魔帝ラッカの敗北に『サザンクロス』の面々が呆然としている隙を見計らってリルを助け出すべく、リルを捕らえていた男の後ろに転移した。


「降参降参! すまんかった!」

「え?」


 転移直後に俺がリルを捕らえていた男に向かって魔法を行使しようとすると、男は慌てて両手を上げた。男から解放されたリルは俺の元まで駆け寄ってきた。


「ハンス!」

「おう、リル。無事か?」

「え、ええ。それより……」


 リルに促されて周りを見ると『サザンクロス』の四人は皆武器をおろしている。どういうことだ? ライオットも状況を掴めていないのか、首を傾げている。


「おい、ゼルフィス。これはどういうことだ?」


 ライオットが『サザンクロス』のリーダーに向かって問いただす。その眉間には皺が寄っていた。


「俺達は魔帝に頼まれたんだよ。どちらかが死ぬまで賢帝と一対一で戦わせてくれってな」


 ゼルフィスは悔しそうに唇を噛み締めながら言った。ライオットは首を傾げて思案する。


「しかし……何故だ?」


 ライオットが更に問い詰めるも、『サザンクロス』の者たちは皆首を振った。


「理由は俺らも教えてもらえなかった」

「そうか……。いや、もしかして最初から死ぬつもりだったのか」


 ライオットの呟きに、『サザンクロス』の面々は思い詰めたような顔になる。彼らはそれだけ魔帝ラッカのことを尊敬していたのだろう。だが、既にこの世に魔帝はいない。ライオットは父の死を目前にし膝を地面につけているアデル王子の元へと向かった。アデル王子は体が神聖な白い光に包まれていた。


「始まったな」


 ライオットは一つ呟くと、ここではない何処かを見、ここにいない誰かの声に耳を傾けるアデル王子を見守る。俺はライオットの元まで歩いて尋ねた。


「何が起こっているのですか?」

「引き継ぎだ」

「引き継ぎ?」

「あぁ。四つあるLランクの職業、剣帝、魔帝、大預言者、大賢者。これらは引き継がれる」

「魔帝ラッカが死んだからですか?」

「そうだ」


 ふむ。伝説級のLランクが四つあり、それぞれが四劫帝の職業ということまでは知っていたが、まさかこうやって引き継がれるとは。ということは、ライオットも誰かから引き継いだということだろう。連綿と紡がれる歴史を感じるな。


「ライオットさんもこうやって引き継いだんですか?」

「いや、私は始祖だからな。引き継ぎはしていない」

「始祖ですか……」

「ああ。なんだ、不思議か? 完全な不老不死はできなくともな、多少の再現くらいはできるのだよ」

「まじですか……」


 この人今、サラッとやばいこと言ったな。不老不死だぜ、不老不死。


「だが、私も先は長くないかもしれないな」

「えっ」


 俺はライオットのその呟きを確かに聞いた。何故弱音を吐いたんだろうか。俺がライオットの言葉を不思議に思っていたその時、不意に鳥肌が立つのを感じた。


「おやおや、魔帝と言えど呆気なかったですねぇ」


 嘲笑するような軽い声が月夜に響いた。仮面を被り何かを抱えている魔族の男が一人宙に浮いていたのだ。その瞬間ライオットの姿が消え、その魔族の後方に転移した。しかし、先程魔帝ラッカにとどめを刺した灼熱の炎は魔族の鋭利な爪によって止められてしまった。


「ほう。私の爪を溶かしますか。その剣なかなかの業物のようですねぇ」

「なんだ、嫌味か?」

「いえ。それに私は争うために来たのではありません。魔帝との契約を果たすために来たのです」

「契約?」


「契約」とその魔族が口にした瞬間、リルが叫び声を上げた。


「何よこれ!」


 魔族とリルの周りに魔法陣が現れたからだ。


「人質か。何をした?」


 ライオットが問い詰めると、魔族の男は嘲るような声音で答えた。


「いえ。ただ私は、魔帝との契約通りにこの子とあの娘にかかる呪縛を解こうとしているだけですよ」

「呪縛?」

「信じていないみたいですねぇ。まぁ、さっさと終わらせましょう」


 俺はリルの元まで駆け寄ったが、特に魔法の壁などはなく、リルに触れることができた。それが分かると、リルは怖いのか俺に抱きついてきた。だが、魔族の言っていた呪い、俺には心当たりがある。セフィロトの呪縛……。そもそも冒険の目的の一つはリルのその呪いを解くことだった。


「おい。そこの君。この子を預けます。来なさい」


 不意に魔族が俺に声をかけてきた。ライオットは剣を構えているが、一つ頷いた。従っておけということだろう。俺は飛行の魔法を使い、魔族の男の近くまで飛んだ。すると、魔族の男は俺に向かって抱えていた何かを渡してきた。


「これは?」

「エルフの娘。あの魔帝の隠し子だ」


 確かに布をまくると、耳の長い幼女がすやすやと眠っていた。


「悪魔にとって契約は絶対なのですよ。これほどに呆気なく魔帝が死ぬとは思いませんでしたが、交わした契約は契約。なので、その剣下ろしてくれませんか?」


 幼女を俺に渡した魔族はライオットに向かってそう告げる。だが、ライオットは依然として剣を魔族に向けていた。


「断る」

「ならば、私の眷属と戦っていてくださいよ」


 嘲笑うようにそう告げると魔族は虚空に三体の化け物を召喚した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

職業【ツリーマスター】がレベチです〜俺だけツリー解放で無双する〜 空色凪 @Arkasha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ