24 魔帝VS賢帝

「きゃっ!」


 リルの声がした。慌てて振り返ると、男にリルが捕まっていた。


「リル!」


『サザンクロス』には5人目がいたのか? いや、先程まで戦闘に参加していた男が一人いなくなっていた。完全にやられた。


「動いたらこの娘がどうなるか……。それが嫌なら言う通りに動くんだな」


 俺は仕方なく動きを止めた。どうする? 転移でリルを捉えている奴の後方に回るか? だが、転移した直後はコンマ数秒の拘束時間がある。その隙にリルを殺される可能性もある。相手はオリハルコンの冒険者だ。流石に侮れない。俺は諦めて剣を空間魔法で仕舞い、両手を上げた。セシルも戦闘をやめて、剣をさやに納めたようだ。


「理解が早くて助かる。しばらくそのままそこでじっとしていろ」


 絶体絶命かと思ったが、何故か『サザンクロス』の面々は攻撃してこない。彼らは警戒を怠らずに、遠くで繰り広げられる魔帝ラッカと賢帝ライオットの戦いを目に焼き付けていた。当のラッカは追い詰められていた。しかし、何故か『サザンクロス』は助太刀しようとはしていない。不思議なのは彼らの目が散りゆく戦士の死闘を見届けるかのように儚く見えたことだった。








 魔帝ラッカと賢帝ライオットの死闘が月光のもと、白銀の地にて繰り広げられていた。


「……まさか、我をここまで追い詰めるとはな」

「貴様こそ、ここまでとは思わなかったぞ」


 満身創痍で血塗れの二人は、しかし笑みを浮かべて睨み合う。そして次の瞬間には同時に動き出し、魔剣と魔剣をぶつけ合った。衝撃に大地が大きく揺れる。


「クッ!」

「ぐっ……」


 二人の力が拮抗し、押し合いへし合いを繰り返す。


「だが……これで終わりだ!!」


 やがて魔帝の魔力が一気に膨れ上がり、魔剣から放たれた闇の波動により、賢帝の身体は呑み込まれた。


「フハハ! 我の勝ちよ! ……グハッ!?」


 勝利を確信した魔帝だったが、突然胸に激しい痛みを感じて片膝をつく。自身の胸を見ると、そこには闇を喰らいつくほどの灼熱の炎に包まれた剣が突き刺さっていた。


「ば、馬鹿な……なぜ生きている? 確かに我が闇をその身に受けたはず……」


 魔帝は自分の心臓を正確に貫いた剣を見て呆然とする。すると背後からライオットが話す。


「私を舐めるな。幻影の類は十八番だ」


 そう言ってライオットはニヤリと笑う。


「くっ……見事だ」


 魔帝は悔しげに顔を歪めてそう言うと、そのまま前のめりに倒れ伏した。


 地面に倒れ伏すラッカに向けてライオットは剣を向ける。


「流石、賢帝ライオット……。人類最強と呼ばれるだけはあるな」

「世辞はよい。貴様、このままでは死ぬぞ」

「そうかもなぁ」

「いいのか? 嘆く者もいるだろう」


「どうだか」と呟きながら、ラッカは仰向けになった。ライオットはふとラッカの髪飾りが気になった。以前はそんなアクセサリーを付けていなかったからだ。


「気づいたか。この髪飾りには幻影の効果がある」

「まさか!」

「その通りだ」


 ラッカが髪飾りを外すと、彼の頭から小さな角が二本現れた。それは他でもない魔族の印だった。


「魔に魅了されたか……」

「さあな」


 ライオットの問いにラッカは答えない。ライオットはこのままラッカを殺すことに決めた。


「言い残すことはあるか?」

「ないな」

「そうか……」


 ライオットは眼を閉じたラッカに向けて、凍結魔法を行使する。抵抗することのないラッカの体は氷で包まれ、氷の花々に囲まれる。それがライオットのせめてもの情けだった。


「永久に眠れ」


 ライオットは最期に告げた。友との別れ。永遠を生きる者として慣れたはずなのに、ライオットは目頭が熱くなるのを感じた。


 魔帝と賢帝の戦いは賢帝の勝利で終わった。

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