23 星月夜の戦い

 ザトナ山に着くと、『白銀』とライオットとアデル王子、『流れ星』と『サザンクロス』の二つに分かれて行動することになった。


 前者はライオットを筆頭に魔帝ラッカを討伐する。後者の二パーティーは魔族の討伐及びザトナ山周辺の町や村の護衛を担当する。もちろん、町や村には聖国の騎士たちが守りを築いているようだ。


「魔帝ってどこにいるか分かるんですか?」

「居場所の検討はある」


 探知系の魔法だろうか。ライオットのスキルや魔法についてはまだ未知が多いが、あまり聞く気にもなれない。


「その居場所って」

「天空の白き楽園と呼ばれる場所だ」

「楽園……」

「私、聞いたことあるわ」


 俺が首を傾げていると、リルが手を挙げた。


「一年中雪が積もっていて、そこにはフロストローズが咲き誇るのよね。本で読んだわ」

「その通り。そして、今宵は満月。儀式をするにはうってつけだ」

「儀式ですか」

「そうだ。奴の部屋を調べたら様々な禁呪に関わる書物が散乱していた。何が目的かは知らんが、魔王に寝返ったのもそれが理由かもしれん」


 儀式ね。俺は儀式とかよく分からないけど、確かに今夜は異様なほどに黄金に光り輝く満月が存在感を出していて、儀式にお誂え向きと言われても納得がいく。だが、魔王に寝返ってまでする儀式とは一体どんな儀式なのだろうか。不謹慎かもしれないが、俺は興味が湧いた。


 しばらく山登りをすると、平坦な場所に出た。そこは正しく天空の白き楽園。カルデラ湖なのか、湖が凍っていて、白銀の世界を月の光が照らし出す。辺りにはフロストローズと呼ばれる白い薔薇も咲いている。


「わぁ、なんて綺麗なのかしら」

「うん。綺麗……」


 リルもセシルも感無量といった感じだ。確かにこの景色は目に見張るものがあった。アデル王子も目を輝かせている。だが、不意に声が響いた。


「やはり来たか、愚者どもよ!」


 男の威勢のある声だった。


「父さん!」


 アデル王子が反応を示した。すると、天からするっと一人舞い降りた。そこには月が逆光となって顔などははっきりとは見えないが、ガッチリとした身体を持つ男が一人立っていた。


「ほう。ライオットもいるのか」

「あぁ。単刀直入に聞かせてくれ。何が目的だ?」

「会話で時間を稼ぐつもりか。それとも情報を得ようという策略か。何れにせよ、お前たちに教えることなどない。全て私の計画が遂行されれば、関係なくなるからな」


 計画ね。どんな計画なのやら。続けてライオットが舌戦する。


「その計画とやらのために、魔族と手を組んだのか?」

「ああ、その通りだ。魔族は禁呪に関する知恵が豊富でな。取引したんだ。まぁ、お前たちには関係ない話だがな」

「やはり戦うしかないのか……」

「そうなるな」


 ライオットとラッカが見つめ合う。不意にラッカが合図を示すかのように手を叩いた。するとどこからかライオットからラッカを庇うように四人の影『サザンクロス』の面々が現れた。


「ほう。貴様らも魔族側についたのか?」


 ライオットの問いかけに『サザンクロス』のリーダーの男が答えた。


「いいえ、私達はただ魔帝のために剣を振るうだけです」

「そうか。なら仕方ない。『サザンクロス』は『白銀』に任せる。私はラッカの相手をする。いいな」


 俺に確認してきたライオットに向かって頷くと、俺はすかさず仲間に指示を出す。


「セシル、二人で行くぞ。リルはアデル王子を連れて後方に隠れてろ」

「わかったわ!」

「私も戦う」


 リルがアデル王子を連れて行こうとすると、アデル王子は抵抗した。だが、俺が「足手まといだ」と告げると諦めてリルについていった。


「いいんですか? 二対四。それに私達『サザンクロス』は皆戦闘系。死にますよ」


 レイピアを装備した眼鏡の男がくいっと眼鏡を上げながら挑発するかのように告げた。が、俺にその挑発は通じない。


「来い。ルナ、キンナラ!」


 俺は犬型の魔物ルナとドラゴンのキンナラを召喚する。これで四対四だ。


「召喚術ですか……」

「そうだ。さっさとかかってこい」

「ではお言葉に甘えて!」


 こうして、俺たちと『サザンクロス』の戦いが始まった。


「先手必勝! 《ライトニングランス》!」


 まず仕掛けてきたのは『サザンクロス』の魔法攻撃担当の男だ。雷でできた槍を複数生成し、一斉に放ってきた。だがその魔法は俺も使ったことのある魔法だ。


「ルナ!」

「グォー!!」


 ルナが一吠えすると、口から高密度の闇のブレスを放つ。その威力は凄まじく、迫り来る複数の雷の槍を全て相殺してしまった。


「なんという……これがSランクの強さなのか」


『サザンクロス』の一人が呟いた。どうやらかなり驚いているようだ。だが、それは他の三人も同じようで唖然としている。それに俺が召喚したドラゴンに見惚れているようだ。


「なんだあのドラゴンは!? 見たこともない色をしている」

「あれほどの聖属性の魔力を内包するなど、聞いたことがない。まさか古代竜なのか!?」

「だが、あんな色の古代竜がいるはずがない。新種の古代竜に違いない」

「構わん。どのみち我らの敵ではない。行くぞ!」


 リーダーの掛け声と共に、『サザンクロス』の残りの三名が一気に距離を詰めてくる。そこに応戦したのは我らが『白銀』の戦士セシルだった。


「させない。《ホーリーブレード》」


 セシルの右手から純白の聖剣が出現し、それを横に薙ぐ。すると、聖属性の斬撃が飛んでいき、先頭を走る眼鏡の男の首を掠める。既のところで眼鏡の男が避けたのだ。


「避けられた!? なら」


 続けてセシルは左手でもう一本の聖剣を現出させ、両手の二刀流となった。そして、素早い動きで相手を翻弄しつつ、隙を見て攻撃していく。


「このっ!  ちょこまかと鬱陶しい。《サンダーボルト》! 《バーニングレイ》!」

「遅い」


『サザンクロス』のもう一人の魔法攻撃担当の女は広範囲に渡って電撃を放出する魔法と炎の雨を降らせる魔法を発動させた。だが、それが命取りになる。セシルは既に女の背後に回り込んでおり、聖剣による二連撃を浴びせていたのだ。女の身体からは血が流れ出し、膝をつく。


「まだだ!」


 残りの一人はそう言って拳を振り上げる。しかし、もう勝負は決していた。既にセシルが相手の懐に入り込んでいたからだ。


「終わり」


 セシルが二本の聖剣を握る手に力を込める。だが、その時「そこまでだ」と後方から声がかかった。振り返ると月光に照らされて、リルを捕える人影があった。

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