Chapter 6-4

 ――イリスお祖母チャマはアナタのせいで死んだんだから。


 アリスの言葉が頭から離れないまま、京太きょうたは帰路についていた。

 何故か、彼女の言葉にひどく動揺してしまった自分がいる。京太からすれば一笑に付してしまえる内容だというのに。


 ばあちゃんが死んだのは。ばあちゃんが死んだのは……。


「痛っ……!」


 突然の頭痛に、京太は眉をひそめた。思考が上手くまとまらない。

 ややふらつきながら歩いていると、どこからかなにやら物騒な声が聞こえてきた。


「――っせぇな! 用は済んだからさっさと消えろよ!」

「無期限無利息がお前のウリだろー?」

「またよろしく頼む……ぜっ!」

「がッ――!?」


 路地裏の方だ。京太は小さく舌打ちしながらそちらへ向かう。


 路地裏の奥、建物の間に挟まれた狭い空間に四人の男子がいた。制服を見るに全員、京太の同じ学校の生徒のようだ。

 一人は地面にうずくまっており、それをほかの三人が囲んでいた。うずくまる彼は蹴り飛ばされ、地面を転がる。更にもう一撃が加えられそうになったところで、


「そのへんにしといてやんな」

「あぁ!?」


 彼らの背後から京太が声をかけた。

 三人の男子がこちらを振り返る。申し訳程度に制服を着崩した、学外でだけ不良を気取っていそうなタイプだ。


「んだよテメー。ぶちのめすぞ」

「逃がさねぇから覚悟しとけよ?」


 その内の一人が京太の前に歩み寄ってくる。が、京太の背の高さに気付いたか、やや距離を離して足を止める。


「逃がさねぇのはこっちの台詞だ。ったく、こっちはイライラしてるってのに、ウチのシマでふざけたマネしやがって」


 京太は即座に、目の前の男子との距離を詰めた。みぞおちに拳を入れてやると、彼奴は為す術もなくその場にうずくまってしまった。

 ここで京太は少し冷静になる。


 ――え、弱っ。手加減したよな、俺。うん、したした。


「テメー!!」


 残り二人はポケットから、折り畳み式のナイフを取り出した。京太は溜め息を吐きたくなるのを抑えながら、二人を手招きしてやる。


「っざけんなぁ!!」

「どっちがだよ」


 二人は縦に並んで仕掛けてくる。前に立つ男子がナイフを突きの形で構え、突進してくる。これを上体を逸らして躱しつつ、ナイフを持つ手首を蹴り上げる。痛みに呻いてナイフを取りこぼしたところを、頭を掴んで壁に叩き付ける。


「っのヤロー!」


 残りの一人が斬りかかってくる。


「遅ぇ」


 しかしこれは、真正面から受け止められてしまった。

 京太は彼奴の手首を掴んで捻り上げる。


「あガァァァァァァッ!!」

「本気で斬る覚悟もねぇのに、刃物なんて持ってんじゃねぇよ」


 落とされたナイフを蹴り飛ばすと、それは路地裏の奥に音を立てながら消えていった。

 手を離してやると、三人は一目散に逃げだす。


「捨て台詞もなしかよ」


 京太は三人に囲まれていた男子に手を貸そうと歩み寄る。

 が、彼はその手を払いのけて、駆け出して行ってしまった。


「こっちはお礼もなしね」


 京太は溜め息を吐きながら、その場を後にした。

 近くの公園に立ち寄り、自販機でドリンクを買ってベンチに腰掛ける。


 なんだか無駄に疲れた。

 京太は少し休憩を挟んでから帰宅することにした。

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