Chapter 6-3

「というわけで、彼女は留学生として我が校に通うことになって、『螺旋の環らせんのわ』がホームステイ先に選ばれたの」

「ホームステイっていうのかよそれ」

京太きょうた君、ツッコミどころは色々ありますが、そこではありません」

「やっぱ?」


 『螺旋の環』の店舗カウンターを囲むのは、京太となぎさ、そして月島水輝つきしま みずきの三名だった。


 なぎさの言によれば、かのアリス・ウィザーズを名乗る少女は昨夜、突然『螺旋の環』に現れた。そして彼女の手にしていた手紙には、先のような内容が書かれていたという。あ、勿論英語で。


「ふーん……。なるほど、読めねぇ」


 京太はなぎさから手紙を受け取り、読んでみる。確かにそこには、京太たちの学校にアリスが留学すること、『螺旋の環』に逗留する旨が書かれているのだが、普通の高校生レベルの英語力では読めなかった。


「なにか問題ありマスカ?」

「うぉい」


 そこへヌッと首を突っ込んできたのは渦中の人であるアリスだった。

 思わず京太は手紙を手放してしまう。そのまま手紙はなぎさの胸元にスッと刺さって収まった。今のなぎさはオフモードなので勿論胸元は全開だった。


「あら」

「Oh……」


 それを見て固まる京太とアリスだったが、水輝の咳払いに気を取り直す。


「えっと、なんの話だっけか……ああ、そうそう。問題あるに決まってんだろ。急すぎんだろうが。っていうか、ばあちゃんの孫ってお前、んなもん初耳だっつーの」

「エエー? でも事実ですヨー? あ・に・チャ・マ?」

「やーめーろっつーの。てかなんだその呼び方?」


 兄チャマ呼びしながら引っ付いてくるアリスを引き剥がし、京太は続ける。


「ったく、だいたいばあちゃんの孫だってんなら、ウチに顔出しゃいいだろ。別にウチの連中なら疑いもせずに迎えてやっただろうぜ?」

「なら、何故ワタクシは疑われてるんデス?」

「決まってんだろ。笑わせんな」


 京太は立ち上がり、アリスと向かい合う。腰を低く落とし構えを取って、だ。


「俺の名前がわかったときから殺気が抑えられてねぇよ、てめぇ。なんのつもりだ」

「なんノつもり? ……はっ」


 アリスの目つきが変わる。


「そいつハ結構。わかってるクセニ。イリスお祖母チャマはアナタのせいで死んだんだから」

「は?」

「大人しくしているつもりデシタが、気が変わりマシタ。アナタはここで殺して――」


「――そこまでにしなさい」


 そこに割り込んできたのはなぎさだった。彼女はメガネをかけて戦闘モードに移行していた。

 隣では水輝もどこから取り出したか銃を構えている。


「それ以上やるつもりなら、『螺旋の環』があなたの敵になるわよ」

「できれば、もう少し詳しく事情を聴きたいところですね」

「アリスちゃーん、町案内ついでに買い物……って、え!? どうなってるの!?」


 と、ここに店の奥から顔を出した朔羅さくらの登場で更に状況がややこしくなる。

 だが、事態は思わぬ形に好転する。


「サクラー! 待ってマシター! ほら、行きまショー!」

「え!? あ、う、うん! あー、なぎさー、ちょっと買い物行ってきまーす……?」


 なぎさが頷くと、朔羅とアリスは連れ立って出ていった。

 店内にはドアベルの音だけが響く。音が収まると、そこに残っているのは嵐のあとのような静けさだった。


 しばらくして、深く息を吐いたなぎさがメガネを外す。


「こういう面倒なことになるとは思っていたのよねー……」

「まともに話してくれる気はなさそうでしたね……。大丈夫ですか、京太君? ……京太君?」


 水輝の問いに答えはなかった。見やると、京太はその場で立ち尽くしていた。


「……ばあちゃんが死んだのが、俺のせい……?」

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