Chapter 5-4

 斬り飛ばされたオロチの頭部は、地面に落ちるともう動くことはなかった。

 頭をなくした身体は少しの間じたばたともがいていたが、やがてその動きを止めた。


 刀を鞘に納める。カチンと金属音が鳴ると、男たちの歓声が上がった。


「うおおおおおおおっしゃあああああああああああああああ!!」


 湧き上がる歓声に、京太きょうたもほっと一息を吐く。身体の痛みも疲労も、とうにピークを超えていた。なにより『龍伽りゅうか』を抜いていた時間が長い。


 そのまま戦いの余韻に浸りそうになったが、すぐにハッと気付いてオロチの亡骸から跳び下りる。

 一目散に向かったのは、未だ気を失っている不動ふどうの元だった。


紗悠里さゆり、どうだ?」

「今、応急処置は終えたところです」

「すまねぇ、助かる。すぐにあやめんとこに運んでやってくれるか」

「かしこまりました!」

なつめ! 手伝ってやれ!!」

「お、押忍!」


 ちょうどそばにいた棗に声をかけ、一緒に運ばせる。車が残っているか心配だったが、水輝みずきが家の車を呼び戻してくれた。


「ありがとな、水輝」

「いえ、僕はなにもできませんでしたから……」

「んなこたぁねぇさ。お前が来てくれなきゃ、あの野郎にやられてたかもしれねぇ」


 黒翼機関こくよくきかんのエキスパート・シュラを名乗る奇術師風の男。水輝が助けに来てくれなかったらと考えるとぞっとする。

 彼奴の実力は未知数だった。あのまま続けて勝てたかと聞かれれば正直首をかしげるところだ。強敵であることは間違いない。ヤツとはいずれ、決着を付けることになるだろうという予感がする。


「いやはや、お見事ですね。さすがは扇空寺せんくうじの鬼といったところでしょうか」


 男たちの歓声が鳴りやまぬなか、やたらとよく通る声と拍手の音が響いた。

 その声に思わず身構えるのと同時に、京太たちの前に突風が吹き荒れる。


 風が止めば、そこに現れたのはくだんの男と謎の少年だった。


「てめぇらは……!」

「さきほどはどうも。改めまして、黒翼機関のエキスパートを務めております、シュラと申します。このたびは鷲澤わしざわ翁、並びにオロチの打倒、おめでとうございます」

「ま、てめぇができなかったら、俺がやってるところだったけどなぁ」


 そううそぶいて笑う少年には見覚えがあった。


「てめぇ、今朝俺を刺しやがった野郎か」

「ご名答ぉ。よく見てんじゃねえか」


 ただ、それだけではなかった。この人を喰ったような笑み、誰かに似ていないか。


「ってこたぁ、てめぇが鷲澤に雇われた忍だな。今更出てきてなんの用だ?」

「はっ。てめぇらには関係ねぇよ」


 少年が笑みを消して底冷えのするほど低い声で言うと、京太たちの前にどろんと低級『魔』の軍勢が出現した。

 それは昨晩、黄泉よみが引き連れていた『魔』どもと酷似していた。


 シュラが口を開く。


「もうあなたがたには戦う力は残っていないでしょう。大人しくしていてください」


 否定はできなかった。睨み合うなか、シュラは鷲澤老の遺体へと歩み寄る。


「なるほど。さすが龍神の力は強大だ。双刃君、せっかく集めてもらった魂でしたが、使うまでもなさそうです」

「そうかいそうかい。なら、俺の好きに使っていいよなぁ?」

「ええ。どうぞご自由に。では、始めましょうか」


 なにをするつもりだ。

 京太たちが見ていることしかできない中、シュラはシルクハットからなにかを取り出した。


「我が王ロキの名のもとに。再誕せよ、終焉の魔神」

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