Chapter5 魔神再誕

Chapter 5-1

 轟棋ごうき健司けんじは、屋敷から離れた蔵に身を隠していた。

 鷲澤わしざわとの戦いの準備のため、扇空寺せんくうじの屋敷は誰もが慌ただしく動き始めた。隠れていろ、と示されたのがこの蔵の中だった。なんとか協力して『からす』のメンバーを運び込み、息をひそめた。


 屋敷は何度かに渡り揺れた。

 まず一度目は鷲澤が攻め込んできたときだ。外では男たちの怒号が飛び交い、蔵の壁がきしんだ。彼らの断末魔がいくつも届き、轟棋たちは正直に言って震えた。彼らにできたのは、見つかることがないよう祈ることだけだった。

 いつしか外の声は止み、静かになった。轟棋と健司は顔を見合わせ、外の様子を確認しようとしたが、そこへ暗がりから声がかかった。


「まだ出ねぇほうがいいぜ」


 二人は声を上げそうになったが、暗闇のなかからい出るように現れた少年に制され、声を呑み込んだ。

 その少年は自分たちと同じ年頃で、初めて会うはずだが誰かに似ているような気もした。


「このウチの連中ぁ、みんな死んじまったよ。お前らも今出てったら殺されるぜぇ」


 そう脅すように言われ、二人は再び身をひそめるしかなかった。


 二度目はそれからしばらくして。聞こえてきたのは京太きょうたの声だった。生きていたのか。屋敷を包む混乱のなか、彼が死んだかもしれないという情報は耳に入っていた。彼が生きていたことに安堵しつつ、なぜ戻ってきたのかとも思った。せっかく拾った命なのに。

 京太たちと鷲澤の蛇たちの激突により、蔵は再び揺れていた。


 三度目はそのすぐあとだ。それも地震と勘違いするほどの大きな揺れだった。


「きやがった……!! さぁ、こっからが本番だぜぇ……!!」


 少年が嬉々として声をあげた。この揺れが収まると、次は大きな破砕音とともに四度目の激震。

 いったい外ではなにが起きているのだ。

 轟棋と健司はたまらず外へ飛び出した。


 そこには巨大な大蛇の姿があった。オロチを目の当たりにし、腰を抜かしたか圧倒されたか、二人はその場から動けなくなった。


 二人のあとから蔵を出た少年が、オロチを見上げてわらう。


「ひゃはははっ!! やっと野郎も本気だしやがった!!」


 哄笑のなか、見上げる先。オロチの体内を突き破り現れたのは、見紛うことなき鬼だった。

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