Chapter 4-3

 京太きょうたの足に絡みついた蛇は、すさまじい力で彼の動きを止めて引きずり倒そうとしてくる。京太はその力に抗いきれず、地面に倒れた。


「がッ……! この……離しやがれ!」


 自身に巻き付く蛇を斬りつけようと腕を振り上げる。しかし蛇は素早く京太の身体を這い、その腕に絡みついてくる。


「なっ……!」


 身動きが取れなくなった京太を蛇が引きずる。その先にいたのは壁に激突し倒れたはずの蛇の面だった。彼奴きゃつはその足を蛇に変え、京太に向かって伸ばしてきていたのだ。

 京太を引きずり寄せようとしている蛇の面は、苦無クナイを手に京太を斬りつけようと構えていた。京太を間合いまで引き寄せたところで、首を狙って苦無を振り抜く。

 が、京太はそれを上体を逸らして回避。その反動を使って頭突きを繰り出す。それは面を勝ち割るほどの威力で、彼奴は完全に気を失ってしまった。


 彼奴が気絶したため、京太に巻き付いていた蛇から力が抜ける。


「っし、次!」


 京太は蛇を振りほどき立ち上がる。見やれば、朔羅さくらたちも絡みついてくる蛇に苦戦していた。


 朔羅の鎌に絡みついた蛇を、なぎさが放った矢が撃ち取る。そのなぎさの両腕に蛇が絡みついてくるが、これを水輝みずきの打った弾丸が撃ち払う。

 その水輝の首へ襲いかかろうとする蛇。京太は思い切り地面を蹴り、跳躍するとこれを斬り払った。


「大丈夫か、お前ら!」

「はい、ありがとうございます!」

「こっちもいけるよ!」


 京太たちは背を預け合う。彼らを蛇の面たちが囲む。


「突破口を開くわ。扇空寺せんくうじ君、あなたはその隙にあの人を追って」

「おう。けど、どうすんだ会長」

「一人に集中しましょう。まずボクが全体に牽制をかけるわ。そうしたら、あなたは一番体制を崩した人に仕掛けて。月島つきしま君、朔羅、あなたたちは扇空寺君の援護を」

「了解!」


 三人の返事を聞き、なぎさはすぐさま頭上に向けて矢を放った。

 直上に撃ち上がった矢は途中で四つに分かれて拡散する。それらはそれぞれに蛇の面たちへ向かって弧線を描いて飛んでいく。

 蛇の面たちは無論それを正面から受けはしない。電撃でできた矢を物理的に切るのは難しいと判断するや、回避行動に移る。


 その内の一人を狙い、京太は駆け出した。回避行動を制限するため、水輝が追い打ちの射撃を繰り出し、朔羅は彼奴の影を狙う。

 朔羅の鎌が彼奴の影を捉え、動きを封じる。そこへ放たれた袈裟けさ斬りが彼奴の肩口から脇腹までを斬り裂き、打ち倒した。


「よし!」

「行って!」

「悪い、任せた!!」


 刀の血を払うのも後回しに、京太は鷲澤老を追うべく走る。


 その京太の目が見開かれたのはすぐだった。

 地面から湧き出るように、無数の蛇の面たちが現れたのだ。なるほど、これだけの数を用意できるのならば頭を失った『扇空寺』を圧倒できるのも必然か。


 数の暴力を前に、京太の足が止まりそうになる。


「若、行ってくだせぇ!!」

不動ふどう!?」


 が、不動たち『扇空寺』の者たちが傷付いた身体を推して、彼奴らへしがみついてその動きを止めた。


「お前ら……! すまねぇ!」


 京太はこの場を彼らに任せ、そのまま駆け抜ける。


 道場へたどり着くと、開いたままの扉の奥では鷲澤わしざわ老が『龍伽りゅうか』を手にしようとしていた。


「待ちな、ジジイ。そいつをどうするつもりだ」

「ほう。蛇どもをくぐり抜けてくるか。なに、お主ら『扇空寺』の象徴にして、この地の守り神である龍神の化身。これを儂も手にしてみたくてのぉ」

「そう簡単に渡すと思うかよ?」


 おどけた調子で言う鷲澤老へ、京太は刀の切っ先を向ける。


「ふん。まあ見ておれ。儂ら『鷲澤』と『扇空寺』の因縁が今日で終わるのをな!」


 斬りかかろうとした京太だが、その腕と足が蛇に絡め取られる。またもや湧き出てきた蛇に体の自由を奪われ、京太はその場に倒れてしまう。


「まだ出てきやがんのか……! けどな、そいつぁあんたには抜けねぇよ……! そいつを抜けるのは扇空寺の鬼だけだ……!!」

「さて、それはどうかの」


 鷲澤老は『龍伽』を手に取る。彼の体躯の優に二倍は超えるそれを持ち上げ、柄を握る。

 が、京太の言う通り鞘は欠片も動かない。それ見たことか。京太がほくそ笑むのを前に、鷲澤老は柄を握る手に力を籠める。


「なぁに……! 龍神の加護ごとき、我が妄執にて破り捨ててくれようぞ……!!」


 鷲澤老の身体から噴き出る瘴気のようなものが、形を変え蛇となって『龍伽』に絡みつく。

 蛇は更に瘴気を放ち、『龍伽』を締め付け鞘から刀を抜き放とうとする。


「――――――――――――――!!」


 辺りを震わせるほどの唸り声をあげる鷲澤老の怨念により、鞘が動く。


 そして、遂に刀は金切り音を立てて抜き放たれてしまった。

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