Chapter 3-5

 しかしその程度の動きならば京太きょうたには見えていた。

 シュラは肉薄する速度のままに斬り上げを放ってくる。京太はこれを上体を反らしつつ迎撃しようとする。


「――ぐっ……!!」


 が、その瞬間に胸の傷が痛み、動きがわずかに止まってしまう。

 シュラの斬撃を回避しきれなかった京太は、後方へと吹き飛ばされ壁に激突する。


「京太君!」

「京太!」


 声を上げる朔羅さくらそら後目しりめに、シュラは京太へ追撃を仕掛けてくる。

 それを見て今度は朔羅もなぎさも動く。


「待ちなさいっ!!」


 追いすがる朔羅が、シュラへと鎌を振り下ろす。しかしそれを察知したシュラは身体を捻って回避する。


「止ま……れぇええええっ!!」


 くうを切る大鎌はそのまま床に突き刺さる。大きな音を立てて弾かれるかと思われたが、鎌の切っ先はそのまま床に吸い込まれるように消えていく。

 鎌が捉えていたのはシュラの影だ。朔羅の鎌は影に物理的に干渉できる能力を持つ。これによりシュラの影は動くことができなくなり、必然、その主であるシュラ自身も動きを封じられる。


「朔羅!」

「お願い!」


 なぎさの声に、朔羅は鎌を離して横に転がる。なぎさの手の中には矢の形をした雷が発生していた。これをつがえ、シュラへと放つ。

 稲光いなびかりの尾を引きながら虚空こくうを駆ける雷の矢がシュラを捉える――その瞬間シュラのシルクハットから狼のような影が伸び、矢を撃ち落として鎌を弾き飛ばしてしまった。


「おや、これは失礼。ウチの番犬が飛び出してしまいました」


 動けるようになったシュラはシルクハットを外す。狼のような影はシルクハットの中に戻っていった。

 あの異次元空間には今のような化け物まで潜んでいるのか。


 シルクハットを被り直したシュラの、慇懃なほほ笑みはここまで一度も崩れていない。

 まだまだ余力を残していそうな彼奴に、ここで猛然と迫る影があった。


 ――扇空時流、焔牡丹。


 大上段からの斬り下ろし。これにシュラは瞬時に反応し、刃を重ねる。


「チッ……!!」

「ほう……これはなかなか……!」


 先ほど斬り飛ばされたかと思われた京太だったが、そういった類の傷跡は見られなかった。

 胸の傷が痛みながらも、剣で攻撃を受け止めた京太は弾かれた勢いのまま自ら後ろに飛んでいた。

 それがわかっていたからこそ、シュラは油断なく追い打ちを仕掛けようとしたのだ。


「そこまでです!」


 そこに響く第三者の声と、二つの銃声。

 撃ち出された弾丸が螺旋の軌跡を描いてシュラへ疾走する。再びシルクハットから狼の影が出現するが、弾丸は軌跡を自在に変えてこれを回避。横合いから挟み込むようにシュラへ迫る。

 これに堪らず、シュラは多く後方へ飛び退く。


 見やれば、そこにいたのは水輝みずきだ。彼の構える二挺のハンドガンが、シュラを正確に狙いすましていた。

 彼の背後にはドアのような形に開いた穴があり、その中には元々の『螺旋の環』の外が見えた。


「みなさん! 今のうちにこちらへ!」

「水輝! 助かる!」


 京太たちは一目散に水輝の方へ駆ける。ドア型の穴に飛び込み、空間から抜け出す。最後に抜け出した水輝がドアを閉める。


「行きましょう」


 水輝に促され、京太たちは外に停めてあった車へと乗り込む。

 老紳士が運転手を務める車は、扇空寺の屋敷へ向けて走り出した。


「ホントに助かったぜ、水輝。にしてもいいタイミングだったな」

「ええ、生徒会長から連絡を受けたもので、なんとか間に合いました」


 京太が目覚めたときから、なぎさが水輝に連絡を取っていたらしい。手際がいいものだ。


「扇空寺の人に連絡は取れないかしら」

「ああ、そうだな」


 なぎさの言葉に頷き、京太は電話をかけてみる。片っ端からかけていくがしかしどれも繋がらない。


「……駄目だ、繋がらねぇ」

「急ぎましょう。葛西さん、飛ばせますか?」

「かしこまりました」


 水輝の声かけに、老紳士は頷きアクセルを踏み込む。その甲斐あってか、程なくして車は扇空寺家の門前に到着した。


 京太たちは車から飛び出し、門を潜る。

 そこで京太たちを待ち受けていたのは、全滅した扇空寺せんくうじ組をあざ笑うかのように立つ、鷲澤わしざわ老だった。

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