Chapter 3-4

「今からちょうど50年前ですね。あなたの祖母・イリス・ウィザーズと、祖父・扇空寺辰真せんくうじ たつまが終焉の魔神を打ち倒し、五大英雄と呼ばれるようになったのは。五大英雄と言えば、このアトリエの共同出資者である赤羽あかばねサツキもその一人でしたか。ふふ、そう考えると恐ろしい場所だ、この町は。かつての英雄の孫の世代が勢力を広げつつある。だからこそ興味深く、こうして足を運んだというわけです」

「へぇ……。で? まさか会いにきただけ、ってわけじゃねぇんだろ?」

「もちろん」


 シュラはシルクハットを取り、中に手を入れる。すると彼が取り出したのは、どう見ても中には収まりきらない刃渡りのサーベルだった。

 それを二本。一本は自身が、もう一本は京太に向かって投げ渡す。


 難なく受け取った京太きょうたは、その切っ先をシュラに向けて構える。


「一つ、お手合わせ願いますか?」

「悪ぃが、ゆっくり遊んではやれねぇぜ? 速攻でケリ着けさせてもらう」

「ええ。できるのなら」

「……朔羅さくら、会長。援護を頼む」


 京太の呼びかけに、朔羅となぎさは頷く。真剣勝負ならば一対一で仕合うところだが、今はそんな状況ではない。


 すると、周りの景色がキューブのように回転を始めた。キューブの層は無限にも思えるほど増えていき、左右に回転して景色を歪めていく。

 『螺旋の環らせんのわ』が魔法使いの工房『アトリエ』として持つ防衛機構が作動したのだ。敵の侵入を感知した建物は、室内の空間を操作し別の空間へと作り替えていく。


 やがて回転が止まったとき、そこは元々の店舗内よりも何倍も広いダンスホールとなっていた。


そら、会長の後ろに隠れてな」

「う、うん」


 京太の声かけで空はなぎさの背に隠れる。なぎさは彼女を庇うように手を広げた。

 それを確認して、京太はサーベルを構えた。傷は痛むが動けないほどではあるまい。

 同じく朔羅は大鎌を、なぎさは弓を。いつの間にか手にしていたそれらをそれぞれ構える。


「それでは――始めましょうか!」


 轟、と。


 踏み込んだシュラの姿は、その瞬間に京太の目の前にまで迫っていた。

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