Chapter 3-3

 『螺旋の環らせんのわ』は古今東西のアンティークを集めた店だが、店舗を訪れることのできる人間は限られている。


「……ボクが見てくるわ」


 室内が静まり返ったのち、嘆息したなぎさが部屋を出て行った。


「お前ら、とりあえず離せ」

「あ、うん」


 京太きょうたの言葉に、彼の身体を掴んでいたそら朔羅さくらはその手を離す。


 部屋には得も言われぬ緊張感が漂う。『螺旋の環』を訪れることのできる人間は限られている。

 それはこの建物そのものに特殊な結界が張られ、一般人の認識を阻害しているからだ。


 そんな中、この状況で狙いすましたかのようにここを訪れる人物がいる。


「行くぞ」

「え? あ、ちょっと!」


 京太はするっとベッドを抜け出し、部屋を出た。

 それがあまりにも自然だったため、空も朔羅も止めることができずに追いすがるしかなかった。


 店内に出ると、そこではなぎさと一人の男が相対していた。


扇空寺せんくうじ君!」

「おや、そちらから来ていただけるとは」


 男はシルクハットに燕尾服という出で立ちの、西洋人である。


 慇懃いんぎんに微笑む彼は、シルクハットを取りつつ深々と頭を下げる。


「私、『黒翼機関こくよくきかん』のエキスパート――いわゆる幹部を務めております、シュラと申します。以後、お見知り置きを」

「『黒翼機関』?」


 聞きなれない名前だった。覚えがあるような気もするが、判然としない。


 頭を上げ、シルクハットを被り直したシュラは答える。


「はい。扇空寺京太様。あなたにご用があって参りました」

「……あぁ? 悪ぃが、今はあんたの相手をしてる暇は――」

「――私が鷲澤わしざわの協力者だとしても、ですか?」


 京太の目が座る。シュラをまっすぐに睨み付ける。


「てめぇ、そりゃあどういう……そうか、てめぇが鷲澤に出入りしてるっつう外人……!」

「ええ。『眼』でしたか。あなた方の監視網に映っていたのは私です」

「そうかよ……! で、そのあんたがここまで一人でなんの用だってんだ。今頃は鷲澤のじいさんと一緒にウチに出向いてなきゃいけねぇんじゃねぇのか?」

「いえいえ。私はあくまで人材派遣と斡旋が仕事でして。私が興味があるのはここ、かつての大魔法使いイリス・ウィザーズが作り上げた魔法使いの拠点『アトリエ』と、彼女の孫であるあなた、扇空寺京太だけなんですよ」


 シュラのその微笑みが、かすかに深まった。

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